楽天テクノロジーカンファレンス 2010 私的不完全議事録 【rakutentech】
10 月 16 日(土)、品川シーサイドの楽天タワーにて「楽天テクノロジーカンファレンス 2010」が開かれました。去年に引き続き、一部のセッションについて議事録を取りましたので、ブログに上げておきます。
私の聞き間違いや勘違いなどがあれば、コメント欄やブックマークコメントなどで教えていただけると嬉しいです。誤字・脱字・誤変換のご指摘も歓迎します。
目次
- 特別講演 (三木谷 浩史氏)
- 基調講演「グローバル・エンジニア」 (まつもと ゆきひろ氏)
- What does Globalization mean for Rakuten? 〜 楽天のグローバル戦略について 〜(よしおかひろたか氏 ほか)
- 「クラウドコンピュータ」の経済学 (中田 敦氏)
- IT エンジニアのから騒ぎ 〜グローバルエンジニアへの道〜
特別講演 (三木谷 浩史氏)
- (英語での挨拶)
- ということで、日本語でやらせていただきます(会場笑い)
- 今回のテーマは「Hello, world!」
- プログラミング学習の最後に出す文字列、これからはグローバルにやっていかなくてはいけないの 2 つの意味
- 組織自体も、内なる言語を英語にしてグローバル化
- 普段は英語でスピーチ。日本語でやるのは Ruby カンファレンス以来
- グローバル化の意味
- 経済……2050 年、日本の GDP は全世界の 3% 程度になると言われている。ネットを中心とした情報網の発達により、情報格差が一気に縮まる
- e コマースを見ても、日本より欧米のほうが進んでいる。マーケットはどこにあるか? 我々インターネットビジネスも海外に出なくてはいけない
- Google、eBay、Amazon いずれにしても、売上の半分はアメリカ以外から来ている
- 世界にはいろいろなタレント(才能)あるの人がいて切磋琢磨している。
- 言葉の問題。楽天の英語化を進める前は、技術者のほうが英語ができると思っていたが、実際は逆だった。ますます一生懸命やらなくてはと思っている
- プログラミングのテキストを母国語に訳して使っているのは日本くらい。他の国では英語のテキストを使い、英語で授業を受けている
- 現在、楽天における海外の売上は 8%。これを 70% まで上げたい
- 世界中のエンジニアを一つのグループとしてまとめたい
- どうやってソースをシェアリングするか? 最終的には、プライベートクラウドを作り、お互いを高め合えるグローバルネットワークを築きたい
- グローバルエンジニア……子会社の CTO を集めて英語で会議をした。今までとは違うステージに来ていると感じた
- OSS 戦略……できるだけオープンソースでやっていこう。このカンファレンスもその一環
- クラウド……すべてをクラウド上にということではない。生産性の向上という意味において、クラウドに正面から積極的に取り組んでいきたい。パブリッククラウドも試験的に取り入れていく。楽天グループにはトラベル、ポータルなどいろいろなサービスがあるが、ウェブ上でやっている行為はどのサービスでもあまり変わらないので、生産性と技術の向上が期待できる
- R.I.T. (Rakuten Institute of Technology)……技術研究所が東京と NY にあるが、拡大の予定
- まつもとゆきひろや Linus もグローバルに活躍している。我が社の社員もグローバルに
- OSS を利用し、貢献していく
- プライベート・パブリッククラウド……パブリッククラウドサービスを使う、パブリッククラウドサービスを提供する(EC2、Azure のように)、プライベートクラウドを作って内部の生産性を劇的に向上させる。この3つに取り組んでいきたい
- R.I.T.……規模の拡大を図る。今までの日本は車や家電、通信技術で世界にアピールしてきたが、ソフトウェアの世界でも世界レベルのことをやっているんだということを実証したい。そのためには外部との積極的なコミュニケーションが重要になっていくだろう
- 楽天は 1997 年に 2 人で作った会社。今はグループ会社含めて 1 万人。これからは技術が重要になっていく。よりオープンに、より基礎的なテクノロジーの差別化をするのが重要。やりきる。"Get-things-done" makes excellent engineers.
- 不可能を現実にするというロマン。自分たちの作ったサービスが世の中で使われていくことの喜び
- Rakuten Shugi──Service Model, Operation, Strategy, Behavior, Technology
- 最初の頃は「楽天は全然関係ないサービスをどんどん買っている」と言われていたが、今になって見れば、それらが「楽天経済圏」と呼ばれる巨大なシナジーを形成している
- 金融から旅行までというひとつのビジネスとして束ねている所は他にはない。技術においても「やりきる」ことが大切
- チームワークとしての開発チームが大切。一致団結。日本だけではなく、世界の企業でやっていこうと思っている。朝会、週に一度の掃除など、日本もアメリカも中国もヨーロッパも共通してやっていこう。それによって共通基盤、共通意識が育っていく
- 国内では、ブランドネームを横展開してきた。国際化によって、国を横断していく
- 組織自体が、働いている人自体が 、国際人としての意識がなければ発展は難しい
- You can make your work enjoyable, "Passionately professional" with us!
- 情熱と夢が特に重要ではないかと思う
- 日本の方の技術力は本当に素晴らしいと思っている。皆さんとも今後も交流させていただき、世界にアピールする機会が作れれば素晴らしい
基調講演「グローバル・エンジニア」 (まつもと ゆきひろ氏)
- スライドを作っていたらテクノロジーの話がまったくない。グローバルの話もほとんどない。その中からエッセンスを取り出すのが真のエンジニアだ(会場笑い)
- 結論: 自分の限界は自分が決める
- 成功する方法は
- 「成功」を定義する。一般的な「成功」はない。成功の定義を決めないと、何をしていいか分からない
- 「成功」は人によって違う。「あなた」の成功の話をしたいので、「あなた」が達成したいことは何ですか?
- 例:
- 金持ちになる (三木谷さんになりたい──金銭的な意味で)(会場笑い))
- 名声を得る (「命よりも名誉」という価値観を持つ人は 500 年前にはたくさんいたし、オープンソースの開発に関わっている人で名誉をモチベーションにしている人もいる)
- 最強になる (プログラマーとしての能力を伸ばすなど)
- 平穏に暮らす
- 誰かが「あなたの幸せはこうです」と言ってくれるものではない。自分で決める
- 重要な原則: 人生は平等ではない (背が高い人──自分は身長にコンプレックスがあるんですが──、勉強が好きな人、嫌いな人)
- 平等でないだけではなく、時には理不尽でもある
- スタート時点から異なっていることは認めなくてはならない。それを勘案して、自分はどういう方向に進みたいのかを決める
- ゴールはそれぞれ違っても、ゲームのルールは似ている。人間の本質そのものはそんなに変わらないと思う。2000 年前のギリシア時代の人たちも、今の人たちと同じようなことで悩んでいる
- 成功 = 目標×行動×運
- 目標を定める
- 世の中には 2 種類の目標があると思う
- 短期的な目標──1〜5 年以内の目標。予想可能な未来。予想可能な範囲内での目標を立てる
- 中期的な目標──個人的には不要だと思う。誰も遠い未来は分からない。「10 年後は?」と聞かれても「分かりません」と答えることにしている
- 長期的な目標──人生についての目標。どういう風に生きるか、死ぬか。テクノロジーで変化しない。「こんな幸せが得たい」など
- 自分自身であれ。他の人には代われないことは何なのかを知るのが大事
- 私はプログラミング言語が専門分野で、高校生時代からやって来た。プログラミング言語が大好きで、自分の人生の間で相当な時間を費やし、家族から不評を買ってきたが、それが自分の強みになる。それを生かさないともったいない
- そういったものが、皆さんにもあると思う。情熱を持ち続けられるかは成功の一つのファクターだと思う
- 哲学的になってきて申し訳ない。どこが「テクノロジーカンファレンス」なんだ(会場笑い)
実際の行動
- 行動なくして成功なし
- 制御しがたい運
- 「Ruby が成功した要因は何だと思いますか?」「運だと思います」
- 自分がやったのは Ruby を作ったこと
- 英語のドキュメントを書いたので外国人に届いた。それを見つけたある外国人が Ruby を気に入ってくれて、周囲に強力に勧めてくれた、英語の Ruby の本を出版してくれる人がいた、など、運がかなり大きい要素
- 運については Ruby の作者たる私は何もできない
- でも本当に?──成功確率は上げられる
- 時間的確率向上
- 最後に立っているのが勝者
- 999 回失敗しても、最後に立っていたら勝者になる。99 回失敗してやめたら敗者
- 成功するまでやると、成功者になれる
- 繰り返すことで成功確率を上げられる
- 「ラーメン代分の儲け」(Paul Graham)──コスト削減、軽量言語、クラウド。あまり大きく稼がなくても、食べていける程度稼げれば続けていくことができる。たとえ失敗してもあまりダメージは食らわない。正反対なのが、日本での起業。失敗すると家は取られるし、借金を返すためだけに何十年も働かなくてはいけない。失敗しないために行動しないといけなくなる
- 小さく初めて、早めに見切る。失敗するなら早めに
- 小さなダメージ、早めに再挑戦
- until success() do try() end
- 空間的確率向上
- どこで(どの分野で)戦うか、どこで活動するか
- 専門分野で
- 広いマーケットで──関心を持つ人があまりにも少なすぎたら活動できない
- この 2 つは矛盾している
- 専門分野 = ニッチ。ニッチでないと成功できないが、ニッチすぎてもダメ
- ロングテール理論──マーケット全体が大きければ、ニッチも十分に大きい
- 大きなマーケット = グローバルなマーケット
- 世界に届くためのコスト
- 物流
- 通信
- 言語
- 意識
- 昔は海外にメールを出すことすら一苦労(20 年くらい前?)。今は通信コストはタダみたいになった
- 言語と意識の壁はまだ高いので、改善する必要がある
- 松江の山奥にまで「楽天の英語公用語化についてどう思いますか」と聞きに来る人がいる
- 英語公用語化なんてやらなくてすむならそのほうがいいが、そうも言っていられない
- 日本の GDP が全世界の 3% になってしまったら、生きていけない
- ヨーロッパでは英語が通じる。なぜかというと、自国語だけでは IT で生きていけなくなるから
- そう遠くない将来、日本語もそうなると思う。その時になって初めて英語に対する意識を変えるのと、今から変えるのでは、今からやったほうがいいんじゃないかと思う
- 非日本人とのコミュニケーション力は、伝えたいことがあるかどうかで変わると思う
- 私の証言
- 口を開け
- 自分を磨け
- 外に出よ
- ひどい英語でも、日本語でしゃべるよりも分かってもらえる
- 言うことに聞くだけの価値があれば、ひどい英語でも聞いてくれる
- 他人のことはどうしようもない。自分が日本に生まれたことなどはどうしようもない。伝えたいことがあるか、伝えようとするかは自分で決められる
- Ruby を作った時は、自分がプログラムを作る時にハッピーになれるような言語を作ろうとした。同じプログラミング言語を使って同じような気分になれる人もいるだろうから、公開した。でもこんなに多くの人が使ってくれるようになるとは思わなかった
- 15 年前、Ruby 公開後一ヶ月で 200 人くらいがメーリングリストに登録してくれた。数万人の利用者がすべて私に共感してくれたとは思っていないが、世界中の人たちが Ruby を使ってくれるようになった
- ガートナーの調査で、2008 年に 100 万人弱の利用者がいると言われていた。2013 年には 400 万人くらいになると言われた。当時はRuby on Rails バブルだったので今はそうでもないと思うが、100 万もの人が Ruby に共感してくれた
- 1 億の日本人の中であなたのニッチにいる人数の 50 倍くらいが、世界にいる
- 日本だけだと生きていけないが、世界に目を向ければ成功できる、というケースが結構あるのではないか
- 外に出て行くことで、今まで見られなかった世界を見ることができる
- 結論: (再掲につき略)
- 世界に視野を広げる
- 日本のエンジニアには非常に優秀な人が多いと思う。日本にいる優秀な人たちは、アメリカのトップクラスの人に負けないと思う。なのに、アメリカのエンジニアは世界にブログが知られている一方、日本人のエンジニアは日本語でブログを書いている。もったいない
- 世界中に仲間(友)がいる。自分の周囲にはプログラミング言語が好きな人はいなくて、孤独な青年時代を過ごした。でも世界中に目を向けるとそういう人はたくさんいる。あなたのポテンシャルな友がたくさんいる。そういう人たちと繋がらない、会わないのはもったいない
- 本当にテクニカルな話はありませんでしたね(会場笑い)
質疑応答
- まつもとさんはエンジニアを鼓舞する話をよくされるが、エンジニアにエールを送りたいという気持ちが根底にあるのか
→そうだ。技術的には素晴らしい人なのに、「俺、英語できないから」と引っ込み思案になる人を見るととてももったいないと思う
- 最初にオープンソース製品を出した時に英語のメールが来てひるむと思うが、そこを踏み出せたのはなぜか
→Ruby を始める前に読んだ OSS のコードは、ドキュメントがロシア語だった。あの時に自分が感じた思いを他の人に味わわせたくないと思い、コメントとドキュメントは英語で書くようにした。日本語でコメントが書かれていたら、世界のエンジニアの人は読めなくてもったいない。本当に拙い英語でも日本語で書くよりマシだと思うので、そう思って踏み出すのがいいと思う
- Ruby に関する一番の失敗とは。
→テクニカルな失敗はあまりしていない。運がいいのかも。トラブルはいっぱいある。飛行機に乗ったら荷物が届かなかったとか、ヨーロッパに行ったらスーツケースが届かず、3 日間どうやって過ごそうかとか(しかも英語の通じないチェコだった)。今ここにいるので(命に関わるようなことにはならなかったので)笑い話になるのでいい。幸運の遺伝子を持っているみたいで(笑)
- 自分で「ここはまつもとでなければできなかった部分だ!」というのがあれば
→ないんじゃないかな(笑)。プログラミング言語に関する情熱については負けないと思う。言語の知識があって、いいデザインができた
- まつもとさんの目指す最終的なあり方のイメージはあるか
→長期的なゴールは「おじいさんになってもプログラムを書いていること」。日本の会社におけるキャリアでは、35 歳でコーディングの第一線からは退いて、というのがあるが、そういうのは嫌いだ。日本においてプログラマーは「士農工商プログラマー」と言われるほど身分が低いが(会場爆笑)、それは改善したい。人間らしい生活をさせてあげたい。その点で Ruby が貢献できるのなら嬉しい。Ruby を使って自分の労働環境が改善されたという話は日米問わず聞く
- 17 年前に Ruby を作り始めた頃のまつもとさんの「成功」の定義は
→島根からようこそ(笑)。1993 年に作り始めたので、確かに 17 年前。「楽しくプログラムすること」という、今と同じ。当時バブル崩壊で仕事がなく、仕事でプログラムする気はなかった。今しなくていつやるんだと思って、作り始めたら Ruby ができた
- 私は中国オフショアのプログラムを読むことがあるのだが、まつもとさんはプログラムのお国柄を感じることはあるか
→あまりよく分からない。自分の付き合いは Ruby 関係の人が多く、ほかの言語と毛色の違う人が多いせいか、お国柄は見えない。OSS に対する関わり方が国によっては違う。日本発の OSS は日本からは見えるが、海外にいると全然見えない。国ごとのビジネス環境の違いもある。スタートアップ企業が多いシリコンバレー、トラディショナルな開発が多い日本の企業、中国やインドのようにアウトソーシングの受け先として存在するので技術を選べない、などの仕組みの違いはある
- まつもとさん自身が人生に影響を与えてくれた人の出会いというものがあれば
→英語の Ruby 本を出してくれた話、Pragmatic Programmers という活動をしている 2 人によって今の Ruby があると言っても過言ではない。ネット上の出会いだが、Ruby にとっては大きかったと思う。彼らも偉くなってしまってなかなか会えないんですが(笑)。プログラミングを中学生のときに始めたきっかけは、父が買ってくれたプログラミング電卓だったが、人間じゃないけど(会場笑い)あのプログラミング電卓との出会いかな
What does Globalization mean for Rakuten? 〜 楽天のグローバル戦略について 〜
- Ustream の録画が公開されています。
- 録画を元に議事録を起こしましたが、私の英語力で聞き取れなかった部分、理解できなかった部分は飛ばしています。特に、東南アジア訛りの英語に慣れていないので、Pawoot さんの発言はかなり誤訳があると思います。他の議事録に増して、参考程度にお読みください。誤訳のご指摘をぜひお願いします。
よしおかひろたか (英語で)このセッションは英語のみになります(拍手)。日本のカンファレンスで英語で話すのが居心地よくないのですが(笑)。日本のカンファレンスで英語でプレゼンをやるのが今回が本当に初めてなんです。今日はフランスとタイからお二人のゲストをお迎えしています。
私は“Hiro Yoshioka”です。2009 年 8 月から技術理事として楽天で勤務。ミッションの一つは、ここの企業文化を変えること。グーグルやフェースブックのように技術中心のものにする。
このプレゼンテーションを英語でやるというのはかなりよい考えだと思いますが、かなりの抵抗やクレームをいただきました。「日本で英語のプレゼンをやるなんて、気が狂ってる」と。三木谷さんは基調講演では日本語で話すようにリクエストされたそうで、日本語で話していましたが、私は(日本語でやることに)抵抗しました。皆さん、私の拙い英語、理解できていますか?(会場笑い。よしおかさんが手を挙げて理解しているかどうかを確認すると、会場から拍手が)
(日本語で)日本語で説明しないとついて来られない人が若干いるんじゃないかと思います(会場爆笑)。日本の皆さんには本当に申し訳ないのですが、今回は英語でやるという実験をやらせていただく。45 分間ガマンしてください。2 人のゲストをお呼びしました。楽天グループで技術のトップの人たちだ。ただ、テクノロジーカンファレンスって、ご承知のとおり、エンジニアがボランティアでやっていて予算がないので、彼らの渡航費をどうやって出すかということで、こっそりの話だが、水〜金までミーティングをしていて、たまたま今日ここで発表することになっています(会場笑い)。ここは偉い人には言わないでいただければと思う。
(英語で)PriceMinister の CTO の Justin と、TARAD の Managing Director、Pawoot。マイクをお渡ししますので、自己紹介を。
Justin Ziegler (日本語で)こんにちは。ありがとうございます。(英語で)これが私が日本語で言えるすべてです。来てくれてありがとう。そして今日ここに招待してくれたことを楽天に感謝します。PriceMinister はフランスの会社で、私はイギリス人。フランスにいるすべての人がイギリス人ではなく、すべての人が私のように英語を話すわけではない。パリに住んで 5 年になる。IT に関する全責任を負っている。約 60 人のチームで、ほとんどがエンジニア。PriceMinister はパリでは有数のメジャーな e コマースサイトの一つだ。楽天市場によく似ているが、少し違う所もある。会社だけでなく、誰でも商品を売ることができる。オークションではなく、固定額で売る。PriceMinister で商品を売って、買い手が支払うと、売り手に代金を渡す「エスクローサービス」という強力な保証をしている。また、もし間違った商品が届いたら、中間に立って事態を収拾させている。長すぎる?(会場笑い)
よしおか いいですよ。(日本語で)PriceMinister という会社は楽天市場同様に e コマースの会社という説明でしたが、日本語はこんな感じでいいですよね?(会場笑い)
Pawoot Pongvitayapanu ちょうどツイートしてました。
よしおか (英語で)彼はツイッターをしているので、フォローしてください。
Pawoot ツイッターのアカウントは @pawoot です。私は Pawoot です。「ポン」とか「ポンさん」とか「ポンちゃん」とか呼んでくれていいですよ(会場笑い)。TARAD.com で Managing Director をしている。1999 年に設立。tarad はタイ語で「市場」の意味。去年、楽天グループに入った。タイの e コマースは始まったばかり。日本の 10 年前のような感じ。タイでの業界リーダーのような存在。楽天グループに入ってからは、楽天モデルを活用している。楽天の一部になって、私たちはとてもワクワクしている。将来、e コマースはローカルなものではなくなると考えていて、グローバルな話をしているからだ。技術面では、LAMP を利用していて、すべてがオープンソースで費用がかからない。
Justin 従業員には給料を払ってる?(笑)
Pawoot はい(笑)。ともかく、我々のモデルは楽天のそれと同じだ。
よしおか 日本、フランス、タイと三者三様の文化がある。異なる部分もあれば、IT 技術やビジネスモデルなど共通のものも持っている。楽天と提携した利点は?
Justin 5 月に三木谷さんと会い、6 月にサインした。電光石火のスピードで、その場で恋に落ちたようなものだ(会場笑い)。楽天にはとても刺激を受けている。主目的の一つは、Ruby と Ruby on Rails だ。PriceMinister は 10 年だが、それ以外に主要な e コマースサイトはフランスにはなかった。とてもとてもとても長い道のりだった。今ではフランス No.1 だが、楽天のおかげで勇気やチャレンジ精神が産まれ、ヨーロッパ No.1 になろうとしている(会場拍手)。
よしおか TARAD はどうか? 楽天傘下に入った利点は?
Pawoot タイの人はおおらかでのんびりしている(easygoing)。しかし楽天に入ってから、働き方が日本的なものに変化した。
よしおか 本当に? 「日本的」とは?
Pawoot 楽天主義(Rakuten Way)、例えば月曜朝の「朝会」のために朝 4 時に起きるとか(会場笑い)。あなた方(日本人)が 7 時に会議を始めて、2 時間の時差が……。
よしおか 日本語訳させてください。(日本語で)電話会議をするのだが、フランスの午前 1 時がタイの午前 6 時で、日本の(午前) 8 時。そうすると、朝 4 時に電話会議にジョインしないといけない。
Pawoot コミュニケーションが重要。朝会の話を社内全体でシェアし、状況や指示、今週はどうするかということを社員全員が知る。これによって会社がとても早く動き、素晴らしい。また、社員が日本に来て、楽天での働き方を日本で学び、タイでも取り入れた。タイ人はおおらかだから、そんなに変わらないだろうと思っていた。しかし、最初の朝会の日、一番遅くに出社してきたのは私だった。「うわ、みんな来てる!」(会場笑い) 楽天主義を取り入れてから、すべてがよい方向に動いた。何か新しい技術があれば、テクノロジーカンファレンスやテクノロジーミーティングを開いて、みんなで共有する。
よしおか 楽天のやり方を取り入れる一方、自身の企業文化や働き方を維持している。そのあたりを。
Justin フランスでは、法律があるので、そんなに長時間働かない(会場笑い)。政府が、国民を長時間働かせるのをよしとしない。我々のような会社では大きな問題で、楽天の連中は情熱を持って長時間働いていて、よい影響をフランスに与えてくれる。法律を忘れて、みんなよく働いている(会場笑い)。
Pawoot 一日何時間くらい働くのか。
Justin もし法律を厳密に遵守するならば、1 日 7 時間だ。
Pawoot それを超えたら? 超えることはできない?
Justin 7 時間以上働いてはならない。
Pawoot e コマースの活動において、PriceMinister と楽天には共通点がある。楽天から多くのことを学んでいる。リサーチセンターで、プロジェクトについて興味深いことを学び、フランスでもたくさんの問題を改善したいと思う。労働や情熱の話に戻ると、フランスではあのアホな法律のせいで(会場爆笑)……。PriceMinister のような会社では、情熱のある人や会社のブランドを向上させてくれる人を重視している。もしあなたが技術力のある人で情熱とエネルギーを持っていれば、フランスではよい仕事を得られるだろう。たとえあなたが 20 代前半であっても。
Pawoot 楽天傘下になる前は、そんなにすごくなるというビジョンはなかった。しかし楽天と一緒になってからは、楽天のやり方に前進させられた。社会をよりよくしようと。社員に私はいつも言っている。クリック一つ一つが顧客との対面で、金銭を得ている。技術を利用して経済をよりよくしているのだという誇りを持ってほしいと。「世界を元気にする」という言葉が好きなのだが、もし世界中のすべての国を「元気」にすることができたら、世界が変わる。世界を簡単に変えることができる。
Justin PriceMinisterで商品を売ることで設立された会社がある。PriceMinister のおかげでネットで商品を売ることができ、会社を興すことができたというサクセスストーリー。
Pawoot それは従業員の力にもなる。「TARAD.com のおかげで成功できたよ、儲かったよ」という話は、従業員がよりよい会社で働くことの誇りになる。
よしおか 楽天は e コマースではユニークな所だと思う。Amazon は全世界がマーケットだ。楽天、TARAD、PriceMinister は限られた商圏しかターゲットにしていないが、Rakuten Way を共有している。それぞれの州が政府を持っている連邦制だ。その一方で、我々は同じ情熱や目標を共有している。
何か質問があればどうぞ。日本語で質問しても英語に翻訳します。
会場から質問 楽天は他社にどのような影響を与えているか。逆に、楽天は他社からどのように影響を受けているか。
よしおか 私は毎日彼らから何かを学んでいる。この 3 日間、長いディスカッションを持ったが、いつでも彼らはビジネスモデルや技術などのケーススタディを披露してくれた。とても素晴らしいものだった。
Justin PriceMinister や TARAD のような小さな会社では、1 ドル や 1 ユーロ使うのにとても慎重になる。楽天は今や成功した大きな会社だ。我々のコスト削減策を楽天に持ち込むと、苦もなくコストを下げることができる。
稼ぐのに、どれだけ費やしたかを考える。
Pawoot 楽天にはすべての技術がある。楽天は 10 年で多くの対価を払ってきたが、我々は払ってきていない。海賊版ソフトウェア……(会場笑い)。今は払っている。
よしおか OSS 戦略について。プロプライエタリも使っているが、エンジニアにもっと OSS 製品を使うように言っている。OSS はコスト、ライセンスフリーだけではなく、トラブルがあった時に自分で直ることができる。OSS はエンジニアを学ばせ、育てさせることができる。プロプライエタリ製品だと、自分が今何をしているのか考える機会がなく、ベンダーにサポートを頼むことになり、学ぶ機会を失ってしまう。OSS 戦略について聞かせてほしい。
Pawoot インフラはすべて OSS 製品だ。サーバーやハードウェアを追加しても料金がかからない。Cassandra のような新しい製品を使うことを検討している。我々の会社は Google App を使っている。新しい OSS 製品を手に入れたら、我々がそれに適合できるようにしている。例えば Yammer も社内で導入している。機会があれば、試してみる。何も声を発しなければ、OSS は進歩しない。
Justin OSS は PriceMinister ではとても重要で、OSS が我々の成功の一要因だと思っている。多くの人は、OSS がとても安く、ライセンスが要らないことを理由に挙げるが、それだけではない。ある OSS 製品が必要だと思ったら試してみることができ、もし用途に合わなければほかのものを試すことができる。OSS 製品を選び、試してみることにリスクはない。その結果、柔軟性と迅速性を手に入れることができる。小さな会社で野心のあるプロジェクトを進める際にとても重要な点だ。ものごとがとても早く流れていく中で、迅速に動くことは重要。ウェブの 1 年は実社会の 7 年に相当する。多くの人が言うには、OSS は中毒になり、創造性を刺激する。貢献するだけでなく単に使うだけでも、世界を改善してゆける。OSS 製品を使うだけでも、世界を改善するという全世界規模の大きなプロジェクトに参加していることになる。
よしおか 使うだけでなく、OSS コミュニティに貢献する。
Pawoot 今日の昼、ラーメン代の儲けという話を学んだ。彼は日本語で話していたが、ツイッターで #rakutentech を見ていたら翻訳してくれている人がいて、彼の言っていることが理解できた。自分のビジネスを始めようとするエンジニアにとって、「ラーメン代の儲け」は大切なことだと思う。オープンソース、クラウドコンピューティング、新しい技術などで、例えば 5 年前のエンジニアに比べてさらに早く先へ進めるようになった。すべてが変わった。たくさんの機会があるが、どうやってその機会を手にするか、考えなくてはならない。野心がないといけない。
よしおか あとは、情熱が必要。成功への情熱、達成への情熱など。
Justin あと忍耐。
会場から質問 楽天グループは世界中に子会社を持っている。ビジネスモデルを共有しているとのお話だったが、技術面についてはどうか。
よしおか いい質問ですね。楽天グループでどのように技術面で共有するかという質問でした。簡単に言えば、今その仕組みを構築しているところだ。詳しく言うと、これはチャレンジだ。TARAD と PriceMinister、楽天、それぞれの会社は技術も従業員も文化も異なる。ひとつのチームになるために、お互いを理解する必要がある。その次に、お互いにベストなやり方を学ぶ必要がある。今週の第 1 レッスンは、お互いを学ぶことだった。情報を共有して共通の問題を探るワークショップがあって、一つのチームとして、与えられた状況の中で問題を解決して No.1 のインターネット会社にならなくてはならない。簡単ではないが、この問題を解決する情熱がある。そしてこの挑戦について議論するスタートラインに立ったばかりだ。
Justin 私がここに来たのは、技術を共有するためだ。3 日間を過ごし、それぞれの問題に気づいた。技術を共有するというのは強固な計画だ。昨夜、大きなチームで、食事中ですら技術や問題点を共有していた。例えば、食事が終わる頃、ある楽天の社員が iPhone のアプリケーションに取り組んでいることを知った。ちょうど私がフランスで始めようとしていたプロジェクトと同じだったものが、楽天でほとんどできあがっている。費用が浮いた(会場笑い)。
Justin もうひとつ、技術の共有例としては、検索が挙げられる。マーケット(市場)のビジネスだけでなく、今週会った楽天のすごい人たちも検索には関心があって、すごい技術者がバックルームでロクに寝ないで検索のプログラムを書いている(会場笑い)。彼は新世代の検索を楽天で作っている。彼が取り組んでいることに、私はもちろん、楽天の他の社員も非常に興味を持っている。
Pawoot (写真を撮って)ツイートしてもいい?(会場笑い)
会場から質問 日本では、成功するための主要因というものは何かあるか。
Pawoot Android の「twicca」など、日本人の作ったアプリケーションをたくさん見てきた。例えばモバイルアプリケーションを作るなど、チャネルはたくさんある。しかし、どうやってそこへたどり着くかを考えなくてはならない。
Justin 日本は他の国に比べて、モバイルアプリケーションに関する利点がある。携帯電話の利用者がヨーロッパや、恐らくアメリカよりも多い。恐らく、ノウハウや知識、ユーザーエクスペリエンスが他の国に比べて有利だ。ソフトウェアを作るビジネスを考えているのなら、海外にソフトウェアを輸出することを絶対に考えなくてはならない。
よしおか では、最後の一人。多くの人が英語で質問してくれて驚いている(会場笑い)。
会場から質問 多くの国で、物を買うことには異なる伝統があるが、楽天、TARAD、PriceMinister 間で、技術を使ってそれらをどの程度交換できるのか。
Justin アプリケーションでは、実際のユーザーインターフェース(UI)はとても slim だ。UI よりも大切なものがある。UI はとても大切なので、UI をローカルに設計し、エンジンやソフトウェアの構造、構成などを共通化する。とても重要な質問だ。ヤツタケさんや buy.com の CTO と議論して、PriceMinister、buy.com、楽天のモデルをどうやってヨーロッパに拡大していくかを考えている。言うまでもなく、UI は問題のひとつだ。国によって微妙に異なるべきだからだ。
Pawoot 今週、ユーザーの行動をどのように測定するかを話し合った。個々の国のデータを結合して分析することができる。この国ではなぜこの製品が人気なのか、など、今日の技術ではそのような分析が可能だ。
Justin UI の話に戻ると、e コマースの現場では特に、ユーザーの行動を測定して分析できるというのは魅力的だ。ページの表示や色遣い、文章などを変えて「AB テスト」と呼ばれる異なるページでテストを行う。異なるページをどのように測定してテストするか、どうやってコンバージョン率を向上させられるか、などの多くのノウハウが PriceMinister にはある。UI は科学的。UI デザインは魅力的。
よしおか とてもクリエイティングなセッションだった。私の拙い英語を辛抱強く聞いてくれてありがとう。最後に、10 秒だけ。次の挑戦は?
Pawoot 世界を改善する挑戦。自国だけではなく、関連グループのすべて。技術を最大限に活用して、世界をよりよくしてゆく。
Justin えーと、私は……。
よしおか 10 秒でお願いします(会場笑い)。
Justin 楽天の力を借りて、ヨーロッパで No.1 になること。
よしおか どうもありがとう!
「クラウドコンピュータ」の経済学 (中田 敦氏)
自己紹介
- 日経コンピュータ記者
- クラウドコンピューティングについての記事を 3 年くらい書いている
はじめに
- クラウドが産業を変えていると思った話、10 月に入って気になったクラウド関連ニュース
- クラウドコンピューティングのこの次の展開を予見させるので、これらのニュースが気になった
クラウドコンピューティングとは?
- 「クラウドコンピューターを使うこと」と私は定義
- Personal Computing、Mobile Computing も「使うこと」
- Ken Thompson 氏(現 Google 在籍)のインタビュー
- クラウドコンピューティングではなく、クラウドコンピューターの問題
- いつでも「あそこ」にあって、いつでもアクセス可能で、いつでもデータを取り出せるコンピュータの存在
- とても困難だと思う。とても大きなデータを、失敗なく取り出せなくてはいけない。大きなジョブと小さなジョブを同時に実現する必要があるから
- クラウドコンピューティングの御利益
- 例えば Gmail、Google Maps
- Slow = PC、Fast = Cloud Computer
- ブラウザで使えるからでもなく、無料だからでもない
- Google のクラウドコンピューター
- ベルギーのデータセンターで冷却装置のない運用。PUE は 1.1 以下
- 『The Datacenter as a Computer』という本。訳本に『Google クラウドの核心』(日経 BP 社)
- ソフト面でも特徴的で、MapReduce、BigTable などの要素技術を全部自前で作っている
- 他人に頼れない規模になってきている。Google 規模のテスト環境のあるサードパーティは存在しない
- 「OS レイヤーがあるとすれば、それは Cluster-Level Infrastructure のことだ」
- スケールアウト──価格性能比を考えると、安い CPU しか使わない。プロセッサ使用率は高いほど消費電力効率がよい→安くて遅い方がいい(安い CPU で使用率 100% にする)
- ソフトウェアベースの耐障害性対策
- MTBF が 30 年というサーバーがあったとしても、1 万台あれば毎日 1 台壊れる
- シカゴの最新鋭データセンター
- コンテナ 112 台
- サーバー台数 22 万 4000 台(コンテナのみ)
- マイクロソフトもコンテナが 100 台以上入るデータセンターを運用し、サーバー台数 20 万台以上に
- 日本の PC サーバー出荷台数(2009 年度) 52 万台、MS のシカゴデータセンターは最大 50 万台(コンテナ 22 万 4000 台、その他は 20〜30 万台)
- シカゴデータセンター消費電力 60MW。東電の家庭用電力計算で、50MW の年間電金料金は 110 億円
- PUE が 2 だと電気代が 200 億円。データセンターの消費電力効率が問題になっている
- MS のデータセンターは輸送用コンテナではなく、プレハブ方式のモジュールを使用。物置のようなハコで側面がスノコ状になっていて、熱はそこから排出
- Google が作り、MS が追いかけて、Yahoo も Facebook も追いかけて……というのがアメリカの状況
データセンターの規模の経済
- 中規模(1000 台クラス)と大規模(5 万台以上)で比較すると……
- ネットワークコスト 7.1 倍、ストレージコスト 5.1 倍
- 管理コストが違ってくる
- 1 人の管理者が 5000 台のサーバーを管理
- 壊れてもすぐには修理・交換せず、定期メンテナンス時のみに交換する
- コンテナが 5 台あれば、「ここは月曜、ここは火曜」という感じでチェックする。壊れていたらその時に直す
- MS のモジュラー型データセンターには人が入れず、一度作ったら 3 年運用する。壊れても直さない。サーバーメンテナンスに人は要らない
- 他人に使わせて規模の経済を実現する
- 自分のデータセンターに他人のコンピューティング使用を取り込むと、規模の経済が働いて、自社のコストが下がる
- 最初に気づいたのはたぶん Amazon。そこで Amazon Web Service (AWS)を開始
- 2008/4 を境に、Amazon e コマースのトラフィックより AWS のトラフィックのほうが上回るようになった
- 通信量が増え、通信のボリュームディスカウント要求が可能になって、Amazon.com のネットワークのコストが下がった
- Amazon の本業は小売業→クラウドサービスで相乗効果
- Google の本業は広告業→クラウドサービスで相乗効果
- Microsoft の本業はパッケージソフト開発→クラウドサービスで相乗効果……になるか?
- Apple も狙っている (iTunes Store など)。ノースカロライナ州に 10 億ドルを投じて巨大データセンターを建設中
- 2012 年のクラウドコンピューティング
- 分散コンピューティング
- KVS
- 消費電力量の少ないハードウェア
- これらを使った商売
- 政府や軍、航空宇宙分野から民生に降りてくるという従来の流れが変わってきている
- クラウドで開発された技術がエンタープライズに持ち込まれる動きが加速
- 本当の意味での「プライベートクラウド」
- 代表格は Hadoop。メインフレーム部分を Hadoop に置き換える
- SOCC (Symposium on Cloud Computing) 2010 に行ってきた
- Google は一ヶ月に約 1 エクサバイト(946PB)を MapReduce で処理している (50 万台のサーバー)
- 目指せサーバー 1000 万台、データセンター 1000 ヶ所
- Spanner──BIgTable の後継。レプリカを 1 台はヨーロッパに、1 台はアジアに置く
- Google が持っているのは「世界最大の『クラウドコンピュータ』」=「世界最大の『機械学習力』」
- PC 将棋のようなことがこれからどんどん起こってくる。Google のデータセンターの温度は28度。50 度以下の場合、サーバールームの温度とハードディスクの故障率に相関関係はないことを、過去のデータから導き出した
- 機械学習力を使って他業種に参入してくるかもしれない、と思っていたら、風力発電や自動運転自動車に参入してきた
- 機械学習力が産業の優劣を決する時代に
- フェースブックは設立 5 年くらいの企業だが、Google 並のデータ分析で Google に負けない企業になっている
- とんでもない性能の PC を OSS によって手に入れられる、いい時代になってきている
IT エンジニアのから騒ぎ 〜グローバルエンジニアへの道〜
河村 基調講演から参加の方、お疲れだと思います。このセッションはゆるめなので、力を抜いて聞いていただければ。本日最後のセッションになります。懇親会にもご参加ください。
このセッションでは、ゲストの皆さんと話すだけではなく、来場者の皆さんからもご質問やご意見をいただきます。
グローバル化が叫ばれている時代……どこで叫ばれているのか知りませんが(会場爆笑)、人口減少、長引く不況、IT 市場の縮小、黒船到来……日本の IT、このままでいいの? という話がどこでも。
ここで質問。(会場に向かって)機会があれば海外で働いてみたい人? ──半分くらいですかね。まつもとさんが挙げていないという(会場爆笑)。このセッションのテーマは「グローバルに働いている方々は、日々どういうことを感じているのか?」「私たちは何を変えるべきか?」「私たちにできることは何か?」。
安藤 安藤です。@yando。PHP の人として知られています。LinkShare という楽天の子会社で 2 年前から勤務。去年は日本 OSS 奨励賞受賞。
Sebastien 楽天株式会社の Sebastien Bruel です。シリコンバレーのベンチャーでも 2 年。クロスボーダー経由の仕事が多い。パネラーの人たちの経験とは真逆だとは思う。
水野 水野貴明と申します。Baidu 株式会社で働いています。世界 3 位の検索エンジンだが、ほとんどのユーザーが中国人で、どれだけ中国人が多いのかといういいサンプルかと。月に 1 回、北京に 1 週間くらい行っている。原稿を書いたり、英語の本を翻訳したりしているが、英語は非常にヘタクソで、翻訳の仕事もやっているが、こんなのでも仕事ができる好例か。Excite 翻訳を利用している(会場爆笑)。
Akky Akky と申します。サイボウズラボで働いています。顔出ししてないので、変装して。キーボードと自炊道具で有名な会社で働いていたり、いろいろな会社で働いてきた。日本のウェブ企業を英語で紹介するブログをやっている。学校でやった英語だけで、あるものでやってきた。ずっと日本の会社を転々としてきて、それでもチャンスを見つけてグローバルに関係する仕事を拾ってきたというのが特徴かと。最近「秋元」だけでは検索しても出てこなくなったので、「秋元 -AKB」または「+サイボウズ」で検索(会場笑い)。
河村 河村と申します。「イベントやってる人」とよく言われるが、普通のエンジニアなので心外だなと(笑)。
海外で働くのって、実際にどうなのか。
安藤 自分はそもそも海外留学経験もなく、親は日本人。仕事の内容そのものは全然変わらない。楽天に来る前はいくつか開発の仕事をやっていた。現場が変わるとシステムが変わるというのはあるが、その程度の差しかなかった。その点ではエンジニアは恵まれているのかな。生活やコミュニケーションの問題は、人によって引っかかるポイントは違う。食べ物は自分は何でもなかった。少なくとも仕事面ではあまり変わらない。
Akky やっていることは、エンジニアはどこへ行ってもそれなりにできる。英語でなくても、ある程度コードで話はできる。営業をやれと言われたら今でもできないと思うが、エンジニアはコードが共通語なのである程度できるかな。楽しめない人は無理にやる必要はないと思う。
河村 水野さんは日本で中国の人と仕事をしているということですか?
水野 我が社は日本が最初の国際進出で、全然国際化されていない。ドキュメントも中国語だし。会いに行くのが一番いいと思う。月に 1 度行っているのは、会わないと話が進まないから。会うとすごく話が早い。
河村 ビデオカンファレンスだと不十分?
水野 不十分。ホワイトボードがあればいいと思うが。図とコードを書けば通じる。お互いヘンな英語でしゃべっているが、十分通じる。
Sebastien みんなと同じことを言うかもしれないけれど、IT エンジニアであれば世界中仕事は一緒。問題点はコミュニケーションだが、最初は言葉や文化が少し変わるので大変だと思うかもしれないけれど、少し時間が経つと「一緒だ」と分かって、私は日本語は完璧じゃないけど何となく通じて仕事もできるようになった。そんなに心配することではないと思う。海外に行くというのは、違う会社に行くのと同じレベルの差だ。私が日本に来た時、楽天に来たので転職になったが、同じ会社だったらそこまで違うのか分からない。
河村 違いは確実にあるのでは。日本の特殊な環境とか。日本の特徴で戸惑った所、課題だと感じた所などは。
水野 中国人としか働いたことがないので中国の話になるが、実利を取るというか「ここらへんまでやっとけばオッケー」という線の引き方が日本人と違う。「美しくないだろう」とか「拡張性が」と思っても、「今の要求はここまでだから」と言われる。設計の段階で「えっ?」と思うような違いがある。
安藤 リスクの取り方が違う気がする。バージョンの入れ替えは日本は保守的だが、向こうで技術系の Meetup を聞いていても、「え、もうそんな組み合わせでやっちゃうの?」という話がよくある。「(現時点ではα版以下の完成度しかない)Symfony2 しか触ったことがない」というエンジニアがいたりする。本が出るまでとかノウハウが溜まるまでというリードタイムが日本は長いと思う。向こうはすぐに新しいものを入れて、問題が出たら考える。在職期間も短いしね(笑)。
河村 海外と日本のエンジニアの違いは? 僕はずっと日本にいて、最近海外のエンジニアと仕事をしているが、日本のエンジニアのレベル感もピンと来ないし、海外のエンジニアが大事にする点もイメージできない。その辺がそもそも違うのかという点も含めて。
安藤 「この人はプロジェクトのリードで設計する人だよね」「要求が複雑な所をドカッと押しつけてビジネスロジックを書く人だよね」というのは日本と変わらない。向こうで会う人は、コンプレックスかもしれないけどリア充ばっかりで、技術面ではともかくリアルで負けている(会場笑い)。フレームワークの作者がボートを持っていて「一ヶ月海の上だから」とか。
河村 給料の違い?
安藤 それは関係しているかも。
Sebastien 私はフランス人として聞かれても、フランスは一番休みを取る国だから日本とは違うけれど、時間の使い方はかなり違う。普通の日本のエンジニアは終電まで働いても気にしていない感じだが、朝 9 時半から終電まで働く日本人と、5 時半や 6 時まで働く欧米人では違う。欧米人は、リードタイムの話で、そこまで待てないから新しいものを使う。プライベートとビジネスの感覚が違う。
河村 どうしてそれが可能なのか。僕なら、無理難題のプロジェクトは「頑張って残業すればできるかな」と思って「できます」と言って徹夜というのがあるが。
Akky 基本的にはそういう場合に「できます」と言わない。残業や徹夜して何が得られるかという話になるし、そこまでもらっていないと。最初の契約でこれだけの時間働くことになっているのでこれだけやりますとか。あと、会社に副業禁止規定がないので、ほとんどのエンジニアが土日や夜に他の仕事をやっている。突然無理を利かせるということができない。リア充はヨットを買っているかもしれないし、心配な人は二つ三つの仕事をやっている。
河村 労働が一つの契約であって、それを超える分については「そういう契約じゃないでしょ」ということになるのか。
Akky たくさん稼いでいる人は、一日中働いていると思う。日本の場合はそうじゃない。
水野 ウチの場合はマネージャークラスが無理なスケジュールを立てさせない。無理なスケジュールはマネージャーが止める。その辺で抑えられていると思う。あと、日本は祝日が多い。中国は日本の半分。その代わり、何かの時はドカンと休む。新婚旅行で 3 週間いないとか。連絡しろよとは思うが(笑)。なので、結構働いているんじゃないかと思う。
安藤 楽天では、コードを書いている人で、小さな子供が複数いる女性はあまりいない感じだが、LinkShare では「今日は子供が熱を出したので家から仕事します」とか「早く帰ります」とか、女性の参加度合いが違う気がする。リア充とも繋がるのですが。
河村 リア充にこだわりますね(笑)。次、「エンジニアにとっての英語」。昨日、パネラーの皆さんと、打ち合わせという名の飲み会とやったのだが、これについて 2〜3 時間話していた。
安藤 僕は英語の学習は高校でリタイアして、大学では一度も英語を取らなかった。英語を使うようになったきっかけは、OSS 作者にメールをするようになったこと。英語で誰かと話す時は緊張するが、理由のひとつは英語で話すことに対する抵抗、もうひとつは知らない人と話すことに対する抵抗。日本人相手ならば経験から目の前の人がどんな人かという予測がつくが、外国人相手ではそれが働かない。言葉よりも、相手とどうコミュニケーションするかが重要だと思う。
Akky 共通の話題があれば、言葉が通じなくてもある程度楽しいと言うことがある。コードが書ける人と話すのが楽しければ、高校英語でも楽しい。
河村 私も最近、外国のエンジニアとの会議があるが、自分は英語が全然ダメなのでしゃべれなかった。自分のチープな英語力で話すのが恥ずかしかったが、少し話し始めれば通じる。合っているかどうか気にせずガンガン話したほうがいいと思っている。「正しい英語をしゃべろう」と思うばかりに話せない人が多いのかな。
水野 言ったモン勝ち。自身がある奴が勝つ。中国の人は本当に自信満々。お互いすごく下手なんだけど、同じパートナーとよくしゃべっていると、お互いの間だけの共通ボキャブラリー、共通コンテキストができる。心配は全然いらない。
Sebastien 日本人は英語に対して不安がありそうだけど、一般の人を見るとだいたい十分だと思う。ビジネスだったら難しいかもしれないけれど、エンジニアだったらいいんじゃないの。意味は多分通じると思う。1、2 度話して通じなければ、違う言葉で 3、4 度話せば通じるから。アメリカ人はほかの国よりも英語非ネイティブな人に慣れていると思う。アクセントがなまっている人が多くて、私も少しなまっていると思うが、アメリカに行くと誰も気にしていない。みんな我慢してちゃんと聞いてくれるので、問題ないと思う。
河村 それも個性だと思ってしゃべればいいと思う。
会場からの質問 エンジニアには英語が苦手な人が多く、英語に対するコンプレックスがある人が少なくないと思う。失礼な質問かもしれないが、劣等感を克服するために何をしたか。
水野 いろんな国の人としゃべるといい。経験を積むということではなく、下手なのに自身たっぷりの人がいるから。ドバイで何を言っているのか分からない人がいて、「分からない」と言ったら「お前、英語分からないの?」と言われた(会場笑い)。
安藤 英語じゃない国に行くと変わるかも。「英語を覚える」と思えばネイティブみたいにならないといけないと思っちゃうけど、ドイツのカンファレンスに行って、ドイツ語の標識が読めない。イメージも湧かない。「これ何?」と聞いて説明してもらって分かると、幸福感を感じる。できる分だけできたんだからいいじゃんという感じになった。
会場からの質問 実際に日本のエンジニアが海外企業で働くことを目指す時の障害はビザだと思うが、みなさんはどうしたか。
Akky 日本の会社から海外に送られるのが一つのパターンで、いきなりビザを取って送り出されることはないと思う。私はサイボウズのアメリカに転職していきなり海外に行ったのだが、そのいきさつは、会社のオフィスに英語で電話がかかってきて、自分が取ったら「あなた転職に興味ないですか?」。ヘッドハンターなんてそんなもんだ。英語で電話すると、その会社で一番英語ができる人が出る。そうすると、英語が一番できる人を探せる。日本人はあまりやらないが、英語の仕事に近づきたければ、興味があることを周囲にアピールすることがチャンスを生むと思う。本当は、それは英語の話だけじゃないよね。プログラミングの話でもそう。日本人はみんな謙虚でいい人だが、それではチャンスは回ってこない。
会場からの質問 海外のソフトウェアエンジニア、特にアメリカ人はリア充だという話があったが、日本人が英語をしゃべれて海外で働いていてもリア充になっていない感じがするのだが(会場爆笑)。
安藤 ここ数日、リア充とは何かを時間を割いて考えている(会場爆笑)。実際は、レーダーチャートのようなバランスで、キャリアを積むことも余暇を充実させることも大事で、それらをバランスよく伸ばしていかないとリア充になれないのでは。日本人は仕事に割かれるリソースが多い。労働習慣として勤務時間が短ければそれ以外のこともできる。日本でヨットを買うのは難しいと思うが、そういうバランスなのでは。
会場からの質問 結果的にリア充になりたい?
安藤 なりたいです!(笑)
河村 無理矢理まとめます。今日のディスカッションを通じて感じたことや、メッセージなどがあれば。
安藤 最近、海外のフレームワークの作者を呼んで一緒に遊んでいる。外国というものを特別に考えすぎることが自分にはあったが、転職時に「外国かそうでないか」を向こうの人はあまり考えてない。出るのも出ないのも選択肢、と自然体に考えている。どういう国か、どういう人かという興味で行きたいかどうかを考えている。
Sebastien 外国も外国人も怖くない。一緒に何かの理由で仕事をやる人は、そんなに怖がることではない。間違っている英語でも大丈夫。不安がるどころじゃないと思う。
水野 「中国の会社だから」とか「中国の会社なので」というのではなく、面白そうなので入ったので、気にしなかった。気にしなければいいと思う。どの国にもすごく尊敬できる人はいるし、そうでない人もいる。日本で頑張っていれば世界で通用する。
Akky 最後のアメリカは失敗して、閉じた時に日本に戻ってきた。東京はいい所で、東京でできることはたくさんある。海外に行っても死ぬまでいる必要もない。帰って来て東京で仕事の幅が広がるのもいい。チャンスがあれば行ってみるのもいい。
河村 今回のセッションを通して、参考になることがひとつでもあればよかったと思う。パネラーの皆さん、ありがとうございました。