「仕事のモチベーションは何ですか?」という質問は、昔からよくありますよね。一昔前の答えは、お金、報酬、名誉、安定などでした。時代はナレッジベースエコノミー(知識集約型経済)へと移行し、人々の価値観もずいぶん変わってきました。今、私たちの仕事のモチベーションとなっているものは何なのでしょうか?

最近のリサーチによると、単純作業ではなく、クリエイティブ思考の占める割合の大きな仕事をしている人には、報酬や昇進など、いわゆる外的モチベーションが機能しなくなったそうです。ボーナスや昇進など、目の前にニンジンをぶら下げるやり方では、もはやいいパフォーマンスを引き出すことはできないのです。

クリエイティブ思考を本当に活性化するのは、「内的モチベーション」です。新しいスキルや知識を身に付け、目標に向かって前進し、それを達成できると想像できる状態であれば、いい仕事をしようというやる気が自ずと出てきます。

 科学者Jonah Lehrer氏の「Self-Talk」という研究によると、私たちは頭の中で常に実況中継をしているそうです。53人の大学生を2つのグループに分けて、アナグラム(文字の組替え)の問題を解く実験をしました。

1つ目のグループは、アナグラムができるかどうかに関係無く、「アナグラムを解くことについて1分間考えてみてください」と指示されました。これは「解けるのか?」と自問自答している状態です。2つ目のグループは、「1分間でアナグラムを解いてください」と指示されました。こちらは「解くぞ」と思っている状態です。その後、どちらのグループにも、10分間でできるだけアナグラムを解いてもらいました。

すると、大方の予想に反して、「解けるのか?」と自問自答していたグループの方が、かなり多くの問題を解くことができました。自分に対して「解けるのか?」疑問を投げかけることで、逆にチャレンジしようという意欲が明確になり、それを乗り越えられたのです

「できるのか?」と自問自答している状態というのは、内的モチベーションを引き出します。人間は、自分自身のために何かをやっている時に、本当の意味でそれを楽しむことができるので、自分の内側から自然とモチベーションが生まれます。逆に、良い待遇や報酬のために何かをしている時は、内的モチベーションは生まれません。

自問自答することで、人は自分に克服できそうな目標を自分で設定します。そして、この目標を達成したいという気持ちが、実際に挑戦しつづけるモチベーションを起こさせるのです。

ダニエル・ピンクも最新刊『Drive(邦題:モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか)』の中で、内的モチベーションがすぐれた仕事を生み出すと言っています。ピンクは本著の中で「自律性」、「マスタリー(熟達)」、「目的」という、3つのキーワードを掲示しています。クリエイティブ思考が必要とされる人は、この3つが内的モチベーションを生み出してくれるそうです。

目的は外的モチベーションの場合もありますが、自分が設定したものであったり、誰かから与えられたものであっても、本気で自分がその目的を目指すことができれば、内的モチベーションになります

最近のハーバード大学の研究でも、内的モチベーションの威力について強調されていました。1,200人の知的労働者を対象にリサーチしたところ、一番のモチベーションは「進歩すること」だと分かったのです。

仕事中に困難に遭遇したとしても、その障害が乗り越えられそうだと感じている時に、最も前向きな気持ちで仕事に取り組むことができ、成功に向かって努力できるのだそうです。逆に、自分の仕事が無意味に空回りしているように思えたり、到底乗り越えられそうもないような障害がある時には、全然やる気にならないそうです。

ですから、目標をコロコロ変えられたり、優柔不断な態度を取られたり、十分なリソースを与えられなかったりすると、モチベーションは下がります。人の上に立つ場合には、部下やチームメンバーのやる気を出させることも大切ですが、やる気をそがないようにすることも、同じくらい大切なことなのかもしれないですね。

What Motivates Us To Do Great Work? [The 99 Percent]

Adam Dachis(原文/訳:的野裕子)