百醜千拙草

何とかやっています

利用される市民目線

2011-03-01 | Weblog
2-11号のScienceのゴシップ欄から。
世界王手の製薬会社ファイザーの大規模なリストラ。研究開発部門を20%カットし、約$2 billion浮かせようという話。新薬開発は半世紀前と比べて遥かに困難になってきていると思います。加えてパテントで保護される期間は限られますから、営利企業としては、研究開発を自前でやることのリスクが高すぎるということでしょう。そのうち、製薬企業というものは無くなるかも知れません。一方、研究開発のバイオベンチャーから技術一本で巨人となったAMGENのような例もあります。製薬企業が研究開発を捨てて、ただの薬の製造販売会社になって、バイオテクにその部門を依存するようになれば、そういう会社の存在意義は低下していくでしょう。代わりがいくらでもある訳ですから。この傾向はますます加速するでしょうし、ならば、企業研究者という職業はますます不安定になっていくのだろうと想像します。
 アメリカで下院議会の共和党代表のエリックカンター氏が、一般市民が政府のムダ使いを監視して、ムダを排除するプログラム、"YouCut"を提案したそうですが、最近、YouCutをNSF(国立科学研究基金)からのグラントに適用しようと言っているそうです。(http://majorityleader.gov/YouCut/review.htm)。それに対して、テキサス大学オースティンのAlexadra Gadeが、NSFに使われる税金は全体でも0.5%に過ぎない、費用(労力)-効果比が悪すぎる意味のないプログラムだと、反論しています。
 日本の事業仕分けを思い出させますね。思うに同じ問題、そしてインチキが、こういうプログラムにはあるのだろうと私は思います。これはパフォーマンスでしょう。そのパフォーマンスのためにNSFがスケープゴートにされようとしているということではないでしょうか。
 日本の場合、事業仕分けとかいう茶番劇をハデにやって、あたかもムダを省いてますよ、という態度をアピールしましたが、現実は、その後に、ムダ事業はこっそり復活、しかも、特別会計という魑魅魍魎の跋扈する世界には一切、手をつけず。ムダの削減をやったふりして、国民の不満のガス抜きを図り、そしてそれでも財源が足りないからと増税の口実にしようという詐欺商法でした。ついこの間も、先の神奈川の民主党県連で「帰れコール」が鳴り響いた昼行灯オカダ氏、利権の温床「特別会計」や官僚のヘソクリ埋蔵金にも切り込もうともせず、「誰が見てもできないことをいつまでもできるというのは、まさしく国民に対する不正直だ」と言って、また顰蹙を買ったらしいです。誰が見ても何の努力もしていないくせに平気で『できない』と泣き言をいうコヤツらは、のび太くんも顔負けです。
 さて、アメリカのこの"YouCut"も同様の意図が隠されているのでしょう。そして、競争資金で切りやすい科学研究費というものに目をつけたということだと思います。警察の駐車違反のレッカー移動と同じです。交通の邪魔になる車をどけるためにレッカー移動するのではなく、レッカー移動しやすい車をレッカー移動するワケです。税金を使う政府事業にしても、本当はムダなのだけれども利権者がいっぱいぶら下がっていて、選挙に影響しそうなムダは切りにくいが、科学研究みたいなものは切りやすいから切るという態度ですね。
 もう一つ、この市民に、研究グラントのムダを判断させる、というやり方、小沢氏失脚の陰謀に利用された「市民目線」の検察審査会を思い出させます。検察が言いがかりをつけて何度も強制捜査を入れたのに何の証拠も見つからず、起訴を断念したマッチポンプ事件を、この素人を利用したシステムを利用して、起訴議決を作り上げ(検察審査会の議決そのものが全くの架空の可能性が強いですが)、強制的に起訴して小沢氏の政治力を削ごうと、官とマスコミが図っている事件のことです。市民目線とか民主主義とかを錦旗のように振りかざすわけですが、実体は、法律の専門的な判断のできない素人衆を雰囲気で誘導して己の都合の良いように利用してやろう、という国民をバカにした態度なわけです。成熟した判断力を持たない大衆の意見で政治がなされるとき、衆愚政治と言われるわけですが、実体は一部のズル賢いヤツがこっそりと「衆愚」を誘導して利用しているのです。そのことが最近のマスコミのヒステリックな報道を見ているとよくわかります。ネットメディアの発展で、国民は前ほど誘導されにくくなっているので、余計に必死になってデタラメをがなり立てて、結果、悪循環に陥っているのでしょう。世間では朝日新聞不買運動が広がっている様子。慶賀に耐えません。タイミングよく平野貞夫さんの「朝日新聞政治からの卒業を!」(http://www.the-journal.jp/contents/hirano/2011/02/43.html)では、太平洋戦争突入を煽ったことを敗戦後に自己批判した朝日新聞が、65年を経て同様の過ちを繰り返していることを批判してあります。朝日、読売は洗脳、世論誘導のためのプロパガンダ紙と成り果てました。消えてもらうのが世のためです。

話がずれました。この"YouCut"、素人の人によくその内容を評価できない研究の「価値」の判断をさせて、それを民主主義という口実で正当化し、ガス抜きを図ると同時に、責任の一部を転嫁するという卑怯でセコいやりかただと私は思いました。そもそも、研究の価値など、そう簡単にわかるのなら苦労はしません。GFPの発見などその最たるものでしょう。「クラゲの発光蛋白を精製する」ことが、ノーベル賞にいたるような価値を産むとは、当の下村博士でさえ分かっていませんでした。また、科学研究で恩恵を受ける人々というのは、はっきりと特定されてません。あえて言えば未来の我々の子孫がその恩恵を受ける可能性があるわけですが、それもどういう形で恩恵をうけることになるのか、現時点では誰も分かっていないことが多いわけです。その辺り一般の人が科学研究の特殊さというのを十分理解しているとは思えません。下村博士の現役時代に"YouCut" があったなら、クラゲの発光物質の研究に税金を費やすことが国民にとって何の有益性があるのだ、と人々は思ったかも知れません。ならば、この発見はなされなかったかも知れません。「市民目線」をポリティクスに利用するな、と私は言いたいです。
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