TUP BULLETIN

速報903号 牛乳や飲み水、そして空気中からも放射性物質を検出――アメリカは安全なのか?

投稿日 2011年4月15日

放射性物質に国境はない

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コロラド州でもあちこちで福島支援のイベントが開かれている。先週ボルダーの市民広場で久しぶりにTUPのOB笛吹氏とばったり顔を会わせた。タイムリーなゲスト翻訳作業に感謝します。

(宮前/TUP)

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私の住んでいるコロラド州でも、3月30日、デンバーの水道水から1リットルあたり0.17ピコキューリーの放射性ヨウ素131が検出された。これがどのくらいの値なのか、日本の水道水の汚染度と比べてみた。



3月23日に東京の水道水から検出されたヨウ素は1リットルあたり210ベクレル。これをピコキューリーとして換算すると、約5670ピコキューリーとなる。デンバーの水道水に含まれるヨウ素の約3万3千倍だ。



驚いたのが、水道水に関する日米の安全基準のおおきな隔たりだ。米国環境保護庁(EPA)の定める飲み水の最高汚染基準値は3ピコキューリー。日本の原子 力安全委員会が定めた水道水の基準値は300ベクレルだが、これを換算すると約8100ピコキューリーとなる。つまりアメリカの基準値の約2700倍なの である。



翻訳・前書き:パンタ笛吹

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牛乳や飲み水、そして空気中からも放射性物質を検出――アメリカは安全なのか?
著者:マイク・ラディック
トゥルースアウト    2011年4月12日(火曜)

米国環境保護庁(EPA)によると、福島第一原子力発電所事故で発生した放射性物質が、雨と共にアメリカ中の大都市に降っているという。

環境保護庁によると、牛乳や飲み水、そして空気中からも放射性物質が検出された。環境保護庁や他の政府機関は、原発事故の後、ある程度の放射性物質が米国の地表に降下すると予測していたが、現時点での放射線量では健康への被害はないと主張し続けている。

しかしトゥルースアウトは政府のデータにずれを確認しており、原子力監視団体らは公共機関が米国民に全容を伝えていないのではないかと懸念している。

アイダホ州のボイジーを検討してみよう。環境保護庁によると、雨水に含まれる放射性ヨウ素131の値は、3月22日に1リットルあたり242ピコキューリーだったのが、3月27日 には390ピコキューリーにはね上がった。その他の12の都市で検出された雨水のヨウ素131の値は、8から125ピコ キューリーだったという。

ボイジーでの検出結果は、飲料水における最高汚染基準値に比べるとずいぶん高いのではないか。安全飲料水法では、長年にわたり人びとが飲む水の安全基準を、ヨウ素131に関しては1リットルあたり3ピコキューリーと定めている。

ボイジーの人びとにとって幸運だったのは、ヨウ素131の半減期が約8日間なので、最近の飲料水検査では、ヨウ素の値が0.2ピコキューリーに下がっていたことだ。しかしいくつかの疑問に対する答えはまだ得られていない。

原子力監視団体、「ギャップに橋渡しする委員会」(CBG)のダン・ハーシュ氏は、「雨水はすでに放射能汚染されているようだが、その汚染雨は放牧地や農業用地にも降っている。しかし私たちは農産物についての検査値をまったく知らされていないし、牛乳についてもわずかしか情報がない」と語った。

ハーシュ氏はトゥルースアウト紙のインタビューに、「政府は十分な検査を実施していないし、関係省庁が測定結果を発表するにしても、情報操作をするので、私には実際に放射線が人びとの健康を脅かしているかどうか確信が持てない」とも語った。

米国内のいくつかの都市で、牛乳から放射性物質が検出されたが、ボイジーでは牛乳に対する放射線検査は行われていない。アーカンソー州のリトルロックで、3月30日に牛乳を検査したところ、1リットルあたり8.9ピコキューリーのヨウ素131が検出された。同じ週、アリゾナ州フェニックスでの牛乳検査では3.2ピコキューリー、カリフォルニア州ロスアンジェルスでは似た数値の2.9ピコキューリーが測定された。これらの検査結果は、サンプルを採取してから約1週間後に発表された。

最もショッキングな数値は、米国本土より日本により近いハワイ島のヒロで測定された。4月4日にヒロで採取された牛乳サンプルからは、1リットルあたり18ピコキューリーのヨウ素131、24ピコキューリーのセシウム134、そして19ピコキューリーのセシウム137が検出されたのである。

これらの数値は、飲料水における放射性ヨウ素の最高汚染基準値、3ピコキューリーに比べると気がめいるような高数値だと思うが、政府機関は、この汚染量は健康に被害を及ぼすレベルよりはるかに低いから安心だと断言している。

それは、牛乳には安全飲料水法による最高汚染基準値が適応されていないからだとハーシュ氏はいう。そのかわり政府機関は、米食品医薬品局(FDA)により制定された放射線緊急時の「派生介入レベル」(DIL)の基準値に頼っている。「派生介入レベル」では、牛乳などの食品は、ヨウ素131の基準値を、1キログラムあたり170ベクレルと設定している。この基準値は、飲料水の最高汚染基準値の1500倍も高い。

放射性物質で汚染された食品が一般消費者の手に渡るのを防ぐために、食品医薬品局などの政府機関がどの時点で規制を始めるべきかを決めるガイドラインとなるのが「派生介入レベル」だ。しかしその基準値は強制的なものではない。

食品医薬品局のホームページを見ると、「派生介入レベルは、人びとが大量の放射線被爆を受けないように推薦された保護的な基準値であり、放射能濃度が安全か危険かをはっきりと規定するものではない。」と書いてある。

ハーシュ氏はまた、「派生介入レベルは、放射能汚染がどの程度広がれば政府が緊急時の介入を起こすかの手引きではあるが、その基準値はとうてい安全な値だとは考えられない。派生介入レベルは、米国内で原発のメルトダウンや汚い爆弾(ダーティー・ボム)が爆発した場合という緊急状況に対応するために、誇張された値になっている。基準値を高めに設定しておけば、政府職員が緊急時に被害者の援助などの優先順位を決めやすくなるからだ」」と主張する。

ハーシュ氏や他の原発批評家は、放射線被ばくに安全だといえる基準値などはなく、たとえ微量の被ばくでもガンを引き起こしえる、という見解で合意している。その見地は2005年に発表された国立科学アカデミーの研究報告によっても支持されている。

環境保護団体「フード&ウォーターウォッチ」の副所長、パティー・ラヴェラ女史は、こう批判している。

「政府機関は、日本から輸入する食糧や製品について、健康に被害を与えるほどのものではない、とただ一律の発表を繰り返すのではなく、もっと放射線検査を広げる必要がある。政府はこぞって、食品や飲み水から検出された放射線量を、レントゲン検査やCTスキャンでの被爆量と比較してその類似点を強調しようと努めているが、それはおかしい。なぜならそれは、リンゴとオレンジを比べるようなものなのだからだ。」

食品医薬品局は、通常は輸入水産物のうち2%を点検し、1%を検査にかけているが、ラヴェラ女史は、日本からの輸入食品の検査をどうしたらもっと厳しく徹底させることができるか、具体策を練るように食品医薬品局に要求している。

米国の食品医薬品局はすでに福島第一原発周辺地域からの野菜や牛乳の輸入を禁止しているが、他の国々の例に習って、日本からの水産物の輸入も一時的に禁止すべきだともラヴェラ女史は言っている。

年齢や健康状態のそれぞれ違う米国民一人ひとりが食品について正しい選択ができるよう、環境保護庁から発表されたレベルにおいてさえも、政府機関は放射能汚染により考えられる健康被害についてもっと正直に発表するべきだと、ハーシュ氏と同様、ラヴェラ女史は求めている。
 
ラヴェラ女史はこうも語っている。

「政府内では、放射能汚染に関するきちんとした論議はされておらず、ただ『心配はいりません。緊急事態になった時には皆さんにお報せしますから、それまでは安心してください』と繰り返すだけです。しかし低濃度の放射線摂取でも健康被害をもたらすという見解が増す中、個々人が自分で食品を選べるように、政府はもっと多くの情報を公開すべきです。」

食品医薬品局などの政府機関は、十分な情報を提供するだけの手腕を持ち合わせていないのでは、とラヴェラ女史は心配している。それに対してハーシュ氏は、政府内に潜在的な利害の対立があるのではないかと危惧している。というのは、米国は新しく原発増設のプロジェクトを推進しているから、その支持層を傷つけることは避けたいので、福島原発の放射能汚染の危険性をわざと軽く扱っているかもしれないからだ。

オバマ政権は米国に多くの原子力発電所を建設する公約を断言しており、議会でも、新しい原発を建設するための540億ドル(約4兆5千億円)もの補助金融資法案を急いで通そうとしている、とハーシュ氏は指摘する。

カリフォルニア大学サンタクルーズ校で原子力政策についての講義もしているハーシュ氏は、「福島原発事故と似たような大災害はわが国でも起こりえる。これは米国政府にとってある種のリハーサルみたいなものだ。わたしが米国政府の成績評価をするなら、落第点しかあげられない」と語った。

原典リンク:
http://www.truthout.org/radiation-detected-milk-air-and-water-america-safe

引用リンク:
http://www.epa.gov/japan2011/rert/radnet-sampling-data.html#water
http://www.committeetobridgethegap.org/
http://www.fda.gov/NewsEvents/PublicHealthFocus/ucm247403.htm
http://www.nirs.org/press/06-30-2005/1