原発より強かった 東北の地熱発電所

秋田県にある東北電力の澄川地熱発電所(三菱マテリアル「澄川パンフレット」より)

東日本大震災では、大きな地震と津波に襲われた福島第1原発が重大な事故を起こした。一方で、同じ揺れに見舞われた東北電力の地熱発電所3カ所(岩手県、福島県、秋田県)は無事だった。地熱発電のCO2排出量は原子力発電の1KWh当たり20gに比べて、同13g(電力中央研究所調べ)と少なく、温暖化対策にも有効なことが分かっている。地熱発電は、ポスト原発の有力候補になる可能性を秘めている。

東北電力の地熱発電所は、秋田県の「澄川」(出力5万KW)、岩手県の「葛根田」(1,2号合計出力8万KW)、福島県の「柳津西山」(出力6万5千KW)、秋田県の「上の岱」(出力2万8800KW)の4カ所。3月11日は、点検中の「上の岱」を除く3カ所が稼働中だった。いずれも大震災発生で自動停止したが異常はなく、2日以内に運転を再開した。

■ 原油の高騰にも耐えられる
日本地熱学会は4月6日、内閣府の日本学術会議に「今こそクリーンな安定電源である地熱発電の促進を」という意見書を提出した。地熱発電は、原子力発電よりもライフサイクル二酸化炭素排出量が少ないほか、化石燃料も使わないので原油の高騰にも耐えることができる。長期間の運転が可能で、事故の危険性も少ないとされている。

天候や昼夜を問わず安定的に発電できるのも強みだ。太平洋に浮かぶ八丈島(東京都)には、東京電力が運営する八丈島地熱発電所があり、全発電量の約3割を地熱で賄っている。ベース電源として地熱が2千KWを安定供給し、残りの約7割を、需要の増減に応じて内燃力(火力の一種)とわずかな風力で調整している。震災の影響はなく、現在も稼動中だという。

日本はインドネシア、米国に次ぐ世界3位の地熱大国で、地熱発電の歴史は約50年ある。しかし、地熱発電所が作られたのは1966年から1999年までで、全国18カ所のみ。設備容量の合計は約53万5千KWにとどまる(火力原子力発電技術協会「地熱発電の現状と動向 2009年」)。その要因として意見書は、 (1)他のベース電源とのコスト競争、(2)国立公園の開発規制、(3)温泉事業者からの反発――を挙げている。

資源の8割以上が眠る国立公園での開発を制限され、国の補助を受けられる「新エネルギー」指定から外されて、地熱開発は停滞した。2008年にバイナリー方式の地熱発電だけ新エネルギー指定を受けたが、大規模開発は対象外だ。地熱発電の基礎調査から稼働までは約10年かかり、政府の後押しがないと進まない。意見書では、開発を促進する「地熱法」制定を提案している。

■ 世界最大出力の地熱発電所は日本製
環境省は2010年に、36年ぶりに国立公園での地熱開発に譲歩した。日本地熱開発企業協議会によると、2011年3月には、規制区域外から公園敷地の地下に向かって斜めに地熱井を掘り進める開発2件が許可され、2011年夏に着工予定だという。

資源エネルギー庁が2008年に設置した「地熱発電に関する研究会」によると、国内の地熱発電所が温泉に悪影響を及ぼした例はない。しかし、温泉の枯渇を懸念する事業者らの反発を受けて頓挫した開発事業もあったため、温泉業界との協調も普及のカギだ。

「3.11」の午前中に閣議決定され、4月5日に通常国会に提出された「再生可能エネルギーの全量買い取り制度」は、地熱発電も対象となる。今はまだ、地熱エネルギーは国内の発電の0.2%に過ぎない(火力原子力発電技術協会「地熱発電の現状と動向 2009年」)。しかし、世界最大出力を誇る「ナ・アワ・プルア地熱発電所」(14万KW)は、実は日本製である。富士電機が2010年にニュージーランドの国有電力会社に納めた。既に技術はある。日本国内の地熱の飛躍に期待したい。(オルタナ編集部=瀬戸内千代)2011年4月18日

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瀬戸内 千代

オルタナ編集委員、海洋ジャーナリスト。雑誌オルタナ連載「漁業トピックス」を担当。学生時代に海洋動物生態学を専攻し、出版社勤務を経て2007年からフリーランスの編集ライターとして独立。編集協力に東京都市大学環境学部編『BLUE EARTH COLLEGE-ようこそ、地球経済大学へ。』、化学同人社『「森の演出家」がつなぐ森と人』など。

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