木走日記

場末の時事評論

原発の代わりになる再生可能エネルギーはこの国の地下に眠っている

 この度の大地震はあらためて説明するまでもなく日本が活発な火山活動及び地震活動の集中する環太平洋火山帯に属しておりプレート型連動地震であったことは、同じく環太平洋火山帯に属しているインドネシアで発生した大地震とメカニズムは同じであります。

■図1:環太平洋火山帯(ウィキペディアより)

 図に赤く示されたこの太平洋を囲む環状の火山帯では世界の過半数の活火山が集中しております。

 日本中いたるところに温泉がわき出ていますが、環太平洋火山帯に属する地域ではマグマ溜まり由来の膨大な地熱が発生しており、その地熱埋蔵量を資源と見なせれば、日本はなんと世界屈指(3位)の資源大国となるのです。

■表1:世界の地熱資源量

国名 活火山数 地熱資源量(万kW)
アメリカ合衆国 160 3000
インドネシア 146 2779
日本 119 2347
フィリピン 47 600
メキシコ 39 600
アイスランド 33 580
ニュージーランド 20 365
イタリア 13 327

■図2:世界の地熱資源量(グラフ)

※データ出自 (独)産業技術総合研究所資料より
http://staff.aist.go.jp/toshi-tosha/geothermal/gate_day/presentation/AIST3-Muraoka.pdf

 ご覧いただければ一目瞭然ですが、アメリカ、インドネシア、日本、フィリピン、メキシコと、地下資源量上位5国がすべて環太平洋火山帯に属しており、表にも示しましたが当然ながら地熱資源量と活火山数には強い相関が見られるわけです。


 地熱発電はいろいろな方式がありますが、例えば現在は夢の技術である「マグマ発電」が実用化すれば、日本の場合、年間消費電力量の2.5倍〜3倍の発電能力を有するという試算もあります。

 環太平洋火山帯の上にあることから火山噴火や大地震津波という災害に見舞われてきた私たちでありますが、この地球活動のエネルギーを電力として利用できたならば、世界有数の資源大国に日本は生まれ変われます。

 今、ソフトバンク孫正義社長の脱原発を目指して発足させる「自然エネルギー財団」の話題もあって、原子力に替わる新たな太陽光発電などの再生可能エネルギーについてその可能性についての議論が盛んです。

 池田信夫氏は孫氏が目指していると思われる太陽光発電では「原発の代わりにはならない」と主張しています。

再生可能エネルギー原発の代わりにはならない
http://news.livedoor.com/article/detail/5513114/

 当該箇所から。

原子力はコンスタントに電力を供給できるが、太陽光発電稼働率は12%。今回の計画停電のような夜間のピークには役に立たない。数字を見ればわかるように、もっとも有望なのは非在来型の天然ガス(Advanced Combined Cycle)で、太陽光の1/3以下である。

したがって孫氏の話の前提が間違っているのだが、かりにそれが正しいとしても、アメリカで起こったことが日本で起こる保証はない。再生可能エネルギーには広い土地が必要で、日本の面積はアメリカの1/25。しかも平地がその3割しかなく、アメリカのような砂漠はない。いくら補助金を出しても、日本の面積を広げることはできない。

 確かに夜間や悪天候では太陽光発電は稼働できませんから、その意味で常時安定供給できる原子力発電の代用としては厳しいでしょう。

 しかしここで再生可能エネルギーとして地熱発電を考えたならば、天候や風力などの影響がありませんから24時間電力供給が可能であるという点では、完全に原子力の代役が務まります。

 ・・・

 実は豊富な熱源を有する日本ですが、ここ10年世界の地熱発電所が次々に稼働し始めている中で、この国ではわずか18カ所の地熱発電所が稼働しているだけで、その総発電量は全発電量の0.2%しかなくこれは原発一機の発電量の半分にも満たないのです。

 なぜ日本で地熱発電が注目されないのか、日本にその技術力がないわけではありません。

 七日付け読売新聞記事から。

 東芝ニュージーランド地熱発電所から発電設備受注

 東芝は2011年4月5日、ニュージーランドの Contact Energy から、同社が建設を予定している Te Mihi 地熱発電所のタービン、発電機、復水器を受注した、と発表した。

 2基の8.3万キロワット級地熱タービン、発電電動機、復水器を2012年に納入する。

 契約は、豪州現地法人東芝インターナショナルオーストラリア(TIC 豪)が、McConnell Dowell、SNC-Lavalin、Parsons Brinkerhoff とのジョイントベンチャーで行った。

 Te Mihi 発電所ニュージーランドの北島、タウポ火山帯に位置する。

 東芝ニュージーランドから地熱発電所向け設備を受注するのは、今回が初めて。納入製品の設計・製造は京浜事業所で行う。

 地熱発電は、再生可能エネルギーである地下のマグマだまりで熱せられた熱水と水蒸気を利用する発電方式。CO2 の排出量が非常に少なく、また、天候や気象条件に左右されないことから、最近では世界的に地熱発電の開発が進んでいるという。現在の世界の地熱発電設備容量は約1,000万キロワットに達しているそうだ。

 東芝は、1966年に岩手県松川地熱発電所に設備を納入以来、北米、東南アジア、アイスランドなど、世界各国で52台の設備を納入している。

(2011年4月7日 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/net/news/internetcom/20110406-OYT8T00718.htm

 東芝だけではないですが、日本企業は世界トップレベルの地熱発電に関連する技術を有していますが、記事の通りもっぱら熱源を有する国に輸出してばかりで、その技術力が国内で生かされてはいません。

 ではなぜ世界第3位の豊富な熱源を地下に埋蔵している日本で、地熱発電所の建設が進まないのか。

 私はこれは東京電力をはじめとする電気事業者達が、これ以上の電力自由化を進めぬために、地熱発電の普及を、政治家・官僚を巻き込んで阻止してきたと疑っています。

 現在地熱発電のコストは高いのですがそれを含めて(独)産業技術総合研究所・地圏資源環境研究部門・地質資源研究グループ長の村岡洋文研究員は、地熱発電が普及しないのは政府のやる気がなぜかないからだとしています。

 世界ではクリーンエネルギーである地熱発電が急ピッチで開発されています。 たとえば,火山国のアメリカでは地熱発電が250万kWにも達しており,フィリピンでは電力の19%が地熱発電で賄われています。火山のないドイツでも, UnterhachingとLandauで,深度3000m以上の掘削が行われ,この11月からそれぞれの地域で小さな地熱発電所が運転開始します。世界有数の火山国であり,地熱資源大国であるわが国で, 何故,地熱開発が進まないのでしょうか? その理由は次の5つにまとめられます。

(1)地熱有望地域の大半が国立公園内の,環境省が開発に縛りを掛けている地域内にあります。このため,わが国の地熱開発はそれ以外の2級の地熱有望地域で行われることになり, 坑井掘削の的中率が低くなり,コストも高くなります。

(2)わが国だけの特殊事情として,27,866個もの温泉泉源が至るところにあります。本来は地熱発電の貯留層は温泉よりもはるかに高温であり,また,深いため, うまく共存することができます。しかし,温泉所有者からみれば,地熱開発が脅威に映り,しばしば反対の憂き目に合うのが実情です。

(3)わが国では,法制度も地熱開発向きにできていません。たとえば,地熱掘削は温泉法の縛りを受けます。このほかにも,森林法,電気事業法,環境アセス法,等々, 多くの法に支配されています。そのため,開発に着手してから,運転開始に至るまでの時間が,わが国ほど長く掛かる国はありません。

(4)これらを総合した結果として,わが国の地熱開発コストは諸外国より非常に大きい傾向があります。

(5)しかし,(1)〜(4)は全て,強力な政策的支援があれば,変更でき,軽減できるものばかりです。たとえば,地熱資源の乏しいドイツで地熱発電が可能な理由は, 政府が小型の地熱発電所に対して,1kWh当たり,15ユーロ・セントで買い取るという強力な政策的支援を行っているからです(大型ではもっと高い)。 つまり,国が本気で再生可能エネルギーを開発する意志があるかどうかが,実は最も大きなポイントです。日本の地熱発電はいまや,人口31万人のアイスランドに抜かれそうな状況です。 地熱関係者として,多くの長所をもち,わが国に豊富な地熱資源の開発が,わが国でだけ停滞していることに忸怩たる思いを禁じえません。

(2007.10.31)

 実は日本では豊富な熱源が確実視されている一等地域にまったく発電所を建設することができていません。

 国立公園内で開発が禁止されていたり、近くの温泉地が無知から来る反対運動を起こしたり、法律も全く整備されておらず、国としての支援もいっさいなく、結果コスト高のまま、普及しないでいるわけです。

 日本の地熱発電開発はここ15年ほとんど伸びていません、そして日本政府は、なぜか1997年に地熱発電を新エネルギーから除外し、さらにそれとともに国の地熱政策予算を激減させ、結果投資家が地熱発電開発への投資を躊躇する状況になっているのです。

 実は地熱発電は、規模も方式もいろいろな実現方法があり大きな電力会社が管理しなければならない原子力とは違って、電力事業者以外の企業でも開発でき、しかも原油やウランのような原料輸入も伴わず、地中からエネルギーを取るだけですから、小規模から大規模まで電力自由化ととても親和性のある地球に優しい技術なのであります。

 東電など電力事業者が地熱発電に熱心ではないのは、電力自由化を睨んで地域独占のポジションをこれ以上浸食されないために、息の掛かった政治家や官僚と組んで、地熱発電の予算を削ることを後押ししてきたのではないかと、私は疑っています。

 しかし日本における地熱発電潜在的ポテンシャルは、もしかするとこの国のエネルギー事情を一変するほどの可能性を秘めているのです。

 法律を変え一等地を開発可能にし、関連技術の研究開発を支援し、コスト競争力がつく軌道に乗るまで政府による電力買い取り補助を行えば、地熱発電は必ずや日本経済を支えうる柱となることでしょう。

 政府・官僚・電力事業者は今一度、この国の豊富な地熱資源に注目すべきです。

 原発の代わりになる再生可能エネルギーはこの国の地下に眠っているのです。



(木走まさみず)