「研究上のライブラリーはいかにして生き延びられるか?」

大学・研究機関で購入している学術雑誌の「査定」が年々厳しくなっている.もちろん,寡占している出版数社が年々購読料を上げていることと,大学・研究機関の図書予算が減っていることの相乗作用が原因.ここでもまた典型的研究分野のジャーナルは安泰だが,非典型的研究分野は風前の灯.農環研の場合,次年度の公費購入雑誌を選定する際の基準は「購入費」・「利用者数」・「他機関所蔵状況」.とくに,利用されないジャーナルは無慈悲なほど切り捨てられる.非典型的分野の場合,もともと利用者数が少ないので,「数の勝負」に出られるとけっして勝ち目はない.

ワタクシの表看板の「統計学」のジャーナルは農環研ではちゃんと購入されてきた(かつての農技研・物理統計部の伝統).しかし,最近では購入の可否を決める図書利用アンケートにちゃんと答えないと(うっかり忘れると),購入中止になるケースが出てきた.少数派の悲哀.ジャーナルによって年間購読料には大きな差異がある.高い雑誌は電子ジャーナルを一箇所だけで機関購読すれば,かなりの節約になると思うが,典型的研究分野の場合は必ずしもそうなっていない.その一方で,ロングテールの隅っこに位置する非典型的分野のジャーナルほど購読中止の憂き目を見る可能性が高くなる.購読中止にしたからといって金額的にはたいしてプラスにならないのに.

非典型的研究分野の場合,購読ジャーナルにかぎらず,単行本も含めて研究に関わる「ライブラリー」をどのように構築して存続させるかは難しい問題がある.非典型的分野の場合,一研究室どころか一研究者が看板を背負っている個人営業が少なくない.公費購入で雑誌や図書を購入したとしても,その研究者がいなくなれば,当該研究室や研究所にとって残されたライブラリーは無用の長物と化す危険性が高い.典型的分野の場合はそういうことはない.研究上近縁な研究者がそこにまだいるわけだから,いなくなった研究者のライブラリーは有効活用され,運がよければさらに成長し存続し続けられるだろう.

非典型的研究分野の「用済み」のライブラリーの運命は,農環研(農林団地の他の独法も同じか)でははっきりしている:各研究室から独法図書室へ移管→筑波事務所の情報センター書庫へ移管.ユーザーにとっての資料アクセスは悪くなるがこれはまだまし.悪くすると,研究室から図書室に移管された後に「処分(廃棄)」される運命が待ち構えている.かつて,農環研にはドイツ語やロシア語の確率統計のジャーナルが購入されていた.第二外国語(非英語)を読む研究者がいなくなって,イッキに「不良債権」と化してしまい廃棄された.

こういう世知辛い状況を考えると,非典型的研究分野に身を置く研究者は私費を削ってライブラリー構築をする宿命を背負っているというしかない(ほかに選択肢はない).私費購入本は,金額的にはけっして自由にならないが,取り扱いは最大限自由である.一方,公費購入本は必然的に研究機関のヒモがつくので(図書館のハンコが押されたり,データベースに登録されたり,機関の資産にカウントされたり),ユーザーである研究者が異動・退職してもいっしょには動かせない.誰にとっても不幸な結末が待っている.

—— 要するに,非典型的研究分野は「研究組織」「人的資源」「研究資金」「ライブラリー」などなどさまざまな場面で試練が科されるということだ.Cf: 「Togetter -「典型的研究分野」と「非典型的研究分野」