2011年6月19日日曜日

脱原発への道筋: 大都市圏と「地元」をつなぐ議論を(2)

脱原発への道筋: 大都市圏と「地元」をつなぐ議論を(2)

首相、安全確認し原発再稼働 「停止は影響大」
 菅直人首相は19日、自然エネルギーに関する国民との「オープン対話」を官邸で開き、電力不足を回避するため、定期検査などで停止中の原発について再稼働を急ぐ考えを示した。「全ての原子炉を止めれば経済に対する影響があまりにも大きい。安全性が確認されたものは稼働していく」と強調した。
 福島第1原発事故を機に、既存の電力会社が発電から送電、小売りまで独占的に担う電力事業の在り方を見直す考えも表明。「巨大な発電をしている自分の会社に有利になるような送電の使い方は改めなければならない」と述べた。ただ退陣とも絡み、発送電分離については実現の見通しがあるわけではない。【共同通信】
⇒「原発廃炉推進が82% 全国世論調査、3人に2人新増設反対」(中国新聞)
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 経産省の停止中原発の再稼働要請に、立地自治体が揺れている。「揺れている」というのは、自治体としては国と電力会社からの「原発マネー」と雇用をキープしたいという思いがあり、基本的には再稼働のGO!サインを出したいのだが、「緊急安全対策」では出すに出せないという状況が続いているからである。

 注目すべきは、揺れる原発立地自治体に対して、新潟日報などの「地元」紙が脱原発に大きく論調をシフトし、自治体も脱原発の態度表明をすべきだと提言を行うようになったことである。これは「3・11」以前にはありえなかったことだ。その意味で、画期的な現象であり、高く評価し、支持したいと私個人は考えている。全国紙が「脱原発」を一般的に語るのと、地元紙がそう語るのは「重み」が全然違うからだ。
 また、福島民友新聞も、厳しい県の実情を踏まえながら、論調としては「脱原発」に傾斜しつつ、そのための具体的なプラン作りを県は急げ、と提言しているように読める。 まず、両紙の「提言」に目を通してほしい。
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福島県「脱原発」 世界的な論議に広げねば
 「福島が脱原発と言わないでどこが言うのか。世界中が注目している」「原発への姿勢を明確にしないと復興ビジョンは始まらない」。委員たちは力を込めて語ったという。 福島第1原発の事故を受け、復興の考え方を福島県に提言する有識者会議「復興ビジョン検討委員会」が基本理念の原案を取りまとめ、柱に「脱原発」を打ち出した。 既に廃炉が決まっている第1原発1~4号機に加えて5、6号機、さらには第2原発も含め県内に立地する合計10基の原発全てを廃炉にすべきだとの意思表明である。 福島県民、全国の原発立地自治体、そして世界への問い掛けであり、呼び掛けであろう。 原発で大事故が起きれば、放射能汚染は地元にとどまらず、全国、地球規模へと拡散する。 検討委の間からは「知事にはビジョンを国連や国際原子力機関(IAEA)などに届けてほしい」と国際社会への発信を求める声も出た。
 検討委は7月末に最終提言を行い、県はこれを踏まえて年末までに具体的な復興計画を策定する段取りだ。 ところが、佐藤雄平知事は「脱原発」を柱に据えた今回の基本理念案に対してコメントを避けた。 事故後、佐藤知事は東電や国に対し「裏切られた気持ちでいっぱいだ。県民の怒りと不安は頂点に達している」と憤りをあらわにしていた。 福島原発に関しては、4月に県庁を訪れた東電の清水正孝社長に対して「再開なんてあり得ない」と伝えた。 だが、この範囲が第1原発5、6号機や第2原発を含むのかが判然としない。会見などでも「事態の一刻も早い収束を」と述べるにとどめている。

 佐藤知事が胸の内に秘めているものは何なのか。 福島原発では東電や協力会社の社員ら約1万人が雇用され、家族を含めれば約3万人の生計を支えてきたとされる。地域は電源3法交付金や核燃料税、固定資産税などの膨大な原発マネーにも頼ってきた。 しかし、原発マネーは地域づくりに貢献するどころか、安易なハコモノ行政に注ぎ込まれた。その維持費が財政を圧迫しているのが実情だ。 原発が生み出す雇用といっても、事故で一時約10万人が避難し、農地や工場などが汚染され、自殺者まで出して何の雇用だろうか
 脱原発を掲げた基本理念案の問い掛けを、福島県のみならず日本全体が真摯に受け止めねばならない。原発に依存するエネルギー政策でいいのか、世界的な論議が必要だ。日本にはそれを仕掛けていく責務がある。(新潟日報2011年6月17日

復興検討委原案/県の覚悟問われる「脱原発」
 東京電力福島第1原発事故を抱える本県の復興に向けた基本理念を県に提言する有識者会議「復興ビジョン検討委員会」が、「脱原発」の姿勢を打ち出す原案をまとめた。 多くの住民が避難生活を強いられ、避難区域以外でも高い放射線量を計測するなど、影響やダメージは継続し拡大もしている。事故収束のめどがいまだに立たないどころか、原発敷地の地下水汚染など新たな問題・課題も相次いでいる。 こうした現状を踏まえると、検討委が県に対して原発からの脱却を求める方向となったのは、当然の成り行きといえる。原発に替わる新たな産業の創出というテーマも含めて、県の覚悟が問われることになる。
 政府は原子力を主要なエネルギー源の一つとする姿勢を変えていないが、今回の事故で原発の「安全神話」が覆された影響は極めて大きい。 確かに、日本全国で即座に原発を停止あるいは廃止するのはエネルギー政策面で現実的でなく、原発による電力供給は今後も続くだろう。 ただ、国際尺度で「レベル7」という最悪の事態となり、世界的にも動向が注目されている事故原発を抱える本県にもその方針、政策を当てはめるわけにはいかない。

 そうした中で、本県が原発への考えをはっきりさせるのは避けて通れず、検討委座長の鈴木浩福島大名誉教授は「原発へのスタンス(姿勢)を明確にしないと福島の復興ビジョンは始まらない」と語っていた。 さらに、検討委メンバーの山川充夫同大教授は「福島が脱原発と言わないでどこが言うのか」と話したように、今後は原子力に依存しない県土づくりを目指すのは納得し得る判断といっていいだろう。
 一方で、脱原発を基本にした社会づくりと一口に言っても、40年にわたり原発と共存してきた本県や立地地域にとって、その道は決して平たんではない。 放射線や土壌改良、自然エネルギーの研究拠点を誘導するなどの案が出ているものの、東電や協力会社による1万人にも及ぶ雇用の受け皿づくりがまず第一の課題となる。 国の全面的なバックアップはもちろん必要だが、原発稼働を受け入れてきた県もその責任を自覚して検討、対応しなければならない。 福島第1原発では1~4号機は廃炉が決まっているが、5、6号機や第2原発4基の計6基は運転再開の余地がまだ残っている。県は、これら6基の再開は認めていないものの、最終的な対応は示していない。 県民の意見を広く聞き、十分にくみ取る作業も残っているが、検討委の提言が県の復興計画に反映されるのは必至の情勢といわれている。国策により甚大な被害を受けた地元として、主体性を持って将来像を形づくることを県には求めていきたい。(福島民友新聞6月17日)
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⇒「脱原発派の試練」へ
⇒「脱原発への道筋: 大都市圏と「地元」をつなぐ議論を」(4/28)より
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福島原発、2号機の扉開放 微量の放射性物質放出
 東京電力は19日、福島第1原子力発電所2号機で原子炉建屋内の湿気を減らすため、屋外につながる二重扉を開いた。扉の開放によって微量の放射性物質が大気中に放出されるが、東電は周辺への影響は少ないと説明している。外気を入れて100%近い内部の湿度を下げ、計器類の調整や水素爆発防止のための窒素封入に取りかかる。 経済産業省原子力安全・保安院と地元自治体の了承を得たうえで19日午後8時51分に扉を開き、作業員が中へ入った。約8時間かけて全開する。
 2号機では核燃料が溶け落ちる炉心溶融が起き、原子炉格納容器の一部である圧力抑制室が破損したとみられる。建屋内には放射性物質を含んだ蒸気がたちこめて湿度が高く、長時間の作業は難しい。11日から換気装置で建屋内の放射性物質の濃度を下げたうえで扉の開放に踏み切った。
 扉を開いたことにより放射性物質が大気中に放出されるが、東電の試算では人体への影響は原発の敷地内でも最大1マイクロシーベルト程度。一般人の年間被曝限度の1ミリシーベルトに比べて十分に小さいとしている。 一方、高濃度汚染水の浄化システムが停止した問題では、東電は19日も原因の解明を続けた。ただ詳しい原因は依然不明で、再稼働のメドは立っていない。汚染水は1日約500トンずつ増えており、現在は1号機の復水器などに移しているが、再稼働が遅れれば移送先も満杯になる。外部への流出を防ぐため、原因究明と再稼働を急ぐ。(日経)

古川知事「国の意思明確になった」 原発再稼働要請
 海江田万里経産相が18日、定期検査などで停止している原発について、立地自治体を訪れて再稼働を促す考えを鮮明にした。玄海原発2、3号機(東松浦郡玄海町)の再稼働問題で、安全性を議論している古川康佐賀県知事は「再稼働への国としての意思が明確に示されたと受け止めている」とした上で、「県議会でも議論されている。その議論なども踏まえて判断していきたい」とコメントした。 
 県は国主催による説明会開催を要請中。国の安全対策の説明について古川知事は県議会で、科学的データをもとにした国の説明内容を内部検討し「一定の理解」を示す一方、浜岡原発(静岡県)の停止理由には「理解できない」として、経産相による説明を求めている。17日の県議会では「時期が来れば来県してもらうが、まだその段階に至っていない」と答弁しており、経産相の来県時期が焦点となりそうだ。 
 既に再稼働に同意する意向を示している地元玄海町の岸本英雄町長は「再稼働に向けて大きな判断材料になる。国がようやく責任を明確にして踏み出した感じだ」と歓迎した。その上で「エネルギー政策の見直しについても、国民に向けてしっかり方向を示してほしい」と注文した。 一方、脱原発を訴える市民団体は国への不信感を一層募らせた。玄海原発プルサーマル裁判の会の石丸初美代表は「事故が収束もしていない段階で、今の原発に安全などと言えないはず。安全宣言どころか、電気のために国民は危険を覚悟してくれ宣言だ。とんでもないことで、大臣が来ると言っても追い返したい」と怒りをあらわにした。(佐賀新聞)

海江田経産相「再稼働を」 立地道県知事、批判噴出
 海江田万里経済産業相が18日、原発再稼働の要請方針を示したことに対し、毎日新聞が原発立地道県の知事に姿勢を尋ねたところ、「適切」とした安全対策への疑問の声が噴出、現時点での受け入れを表明する知事はいなかった。原発の運転に関して知事に法的権限は無いが、電力会社と道県などの協定もあり、知事の同意無しの稼働は困難とみられる。経産相は近く福井県と九州を訪問する方針だが、慎重姿勢を見せる知事の説得など、各地で紛糾するのは必至の情勢だ。
 取材に応じなかった福井県知事と連絡が付かなかった茨城、鹿児島両県知事を除く10道県知事が取材に応じた。現在、国内の商業用原発54基のうち37基が停止中(調整運転を含む)。運転中のうち5基が8月末までに定期検査に入る予定で電力需給の逼迫(ひっぱく)が懸念されている。海江田経産相は同日の会見で、シビアアクシデント(過酷事故)対策に関し、適切との評価結果を公表した。
 適切と判断した根拠の説明を求める知事は多く、溝口善兵衛島根県知事は「国が指示し、電力会社が実施する安全対策で十分かチェックする必要がある」と国の方針をうのみにできないとの姿勢を堅持。新潟県の泉田裕彦知事は「安全性について論評に値する内容が無い」とコメント。「本県の技術委員会の質問に国は回答していない」と不快感も示した。 原発事故の現場となった福島県の佐藤雄平知事は「再稼働はあり得ない」と従来通り断言。菅直人首相判断で運転停止となった静岡県の浜岡原発は、今回の経産相方針でも対象外とみられ、川勝平太知事は「再開のさの字も出る状況ではない」と現状を語った。
 浜岡原発と他の原発との違いについて説明を求める知事も複数いた。福井県は、県幹部が「原発の高経年化対策や、浜岡原発のみに停止を命じた判断根拠などが示されなければ、定期検査中の原発の再稼働は了解できない」と慎重な姿勢を示した。 原発の建設や運転の許認可権は国にあるが、道県と市町村、電力会社は安全協定を結び、施設増設などは地元の了解を取る▽自治体の安全措置要求の受け入れ--などを約束している。経産相の発言を巡っては橋下徹大阪府知事も「時期尚早。経産相や経産省のみなさんが原発周辺に住めばよい」と話している。

■道県知事のコメント
◇北海道 高橋はるみ知事
 過酷事故対策が適切と評価した根拠も含め、国は責任ある説明が必要。説明を踏まえ対応を検討したい
◇青森県 三村申吾知事 
 県原子力安全対策検証委員会での検証結果、県議会での議論などを踏まえ、慎重に、かつ厳しく対処していく
◇宮城県 村井嘉浩知事 
 一定の理解は示すが、不安の声があるのも事実で安全対策を万全にしてほしい。女川原発にはコメントできない
◇福島県 佐藤雄平知事
 原発が立地している県の知事は安全確認の証左(???)がなければと言っている。(福島第2原発の)再稼働はあり得ない
◇新潟県 泉田裕彦知事
 本県の技術委員会の質問に国は回答していない。原発の安全性について論評に値する内容を何も含んでいない
◇石川県 谷本正憲知事
 経産相の判断は一つの考え方だが、浜岡原発と他の原発の違いを十分説明していただかないと判断は難しい
◇静岡県 川勝平太知事
 (浜岡原発が含まれないのは)当然だ。完全な対策だと確認できない限り、再開のさの字も出る状況ではない
◇島根県 溝口善兵衛知事
 国の指示内容が、福島原発事故の原因を踏まえた安全対策として十分かチェックしていく必要がある
◇愛媛県 中村時広知事
 再稼働の必要性に理解を求めたのだろうが詳細は分からない。伊方原発の稼働は白紙であることに変わりはない
◇佐賀県 古川康知事
 再起動への国の意思が明確に示されたと受け止める。玄海原発の再起動は、県議会での議論も踏まえ判断したい (毎日
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「安心は無視か」 経産相「再稼働を」に怒りあらわ(毎日より抜粋)
◎北海道電力泊原発(北海道泊村)
 3基ある原発のうち、現在1号機が定期検査で停止している。3号機は試験運転中で営業運転再開のめどが立っておらず、8月下旬には2号機も定期検査に入る予定だ。2基が稼働しなければ「冬場がピークとなる電力供給が逼迫(ひっぱく)する」(北電)恐れがあり、泊村の牧野浩臣村長は「国が安全性を確認し(再稼働に向け)指針を示してくれたことはよかった」と歓迎しつつ「北電には引き続き安全の重視を求めたい」と付け加えた。

◎全7基のうち3基が停止中の東京電力柏崎刈羽原発(新潟県)。
 立地自治体である新潟県刈羽村の品田宏夫村長も「科学的根拠があっての判断ならば、原発の運転再開は良いと思う。むしろ中部電力浜岡原発の停止について、判断基準が示されておらず納得できない」と述べた。
・「柏崎刈羽原発反対地元3団体」共同代表の高橋新一さん(63)。
 「福島県民や国民の気持ちをどう思っているのか。福島の事故が収束した段階ならば分かるが、多くの避難者がいつ帰れるかわからない中で目先の電力需要だけを考えるのか。運転再開の前に、事故の収束や補償などやることがあるはずだ」。

◎関西電力高浜原発(1~4号機)の1号機が停止中の福井県高浜町の野瀬豊町長。
 「立地市町として国に求めている原発の新しい安全基準や避難道の整備などについて、何らかの答えをもらえるなら意味があるが、ただ『動かしてほしい』だけでは難しい」とクギを刺す。さらに「政府のいう再生エネルギー計画なども位置づけが不明確で、ムードとしてしか語られていない」と疑問を投げかけた。
・福井県内の市民団体「原子力発電に反対する福井県民会議」の小木曽美和子事務局長。
「原発事故を受けた新たな安全基準や耐震設計審査指針などを具体的に何も示さず、なぜ運転を再開できると言えるのか」と海江田経産相を厳しく批判した。

◎核燃料再処理工場がある青森県六ケ所村
 地元に住む60代女性。「脱原発の流れが世界で高まっているのに、違和感を覚える。今後、核燃料が再処理工場へどんどん運ばれてくることになり恐ろしい」。

◎九州電力玄海原発2、3号機の運転再開問題を抱えている佐賀県玄海町。
 町議会の大半が既に運転再開を認め、岸本英雄町長も近く容認を表明する意向だ。
・玄海原発でのプルサーマル発電に反対する「プルサーマルと佐賀県の100年を考える会」の野中宏樹世話人(48)。
 「根本的な事故の解明が出来ておらず、安全性の根拠も希薄な中での経産相の発言は、立地自治体の再開容認へのプレッシャーとなる」と危機感を強め「立地自治体の首長は目先の問題より100年先の子供の命を考えてほしい」と訴えた。

「相馬野馬追」 規模縮小し開催へ
 福島県相馬地方で1000年以上続く国重要無形民俗文化財「相馬野馬追」の執行委員会は18日、祭りの中心行事「甲冑(かっちゅう)競馬」と「神旗争奪戦」を今年は実施せず、規模を縮小して開催することを決めた。東京電力福島第1原発事故で、会場の一部が警戒区域や緊急時避難準備区域に含まれるため。
 相馬野馬追は7月下旬に3日間行われ、初日は相馬市から南相馬市まで約30キロを甲冑姿の武士が馬で練り歩く「武将行列」、2日目には甲冑競馬と神旗争奪戦、最終日に奉納用の馬を素手で捕らえる「野馬懸」がある。執行委員会では、武将行列を相馬市内だけで行うことや、野馬懸が行われる相馬小高神社(南相馬市小高区)が警戒区域内のため、別の場所で簡素化して実施することも報告された。【毎日・神保圭作】