竹村英明の「あきらめない!」

人生たくさんの失敗をしてきた私ですが、そこから得た教訓は「あせらず、あわてず、あきらめず」でした。

再生可能エネルギーへの系統「接続拒否」を読む

2014年10月16日 | 自然エネルギー
九州電力からはじまった再生可能エネルギー電気の「連系保留」について、いろいろな意見が飛び交っている。直接の「被害」をうけているのは、突然「連系保留」を言い渡された再生可能エネルギー発電事業者である。もし仮に、この「接続保留」が永遠の「接続拒否」を意味するのであれば、発電事業者には多大な「損害」が発生することになる。電力会社との協議に基づいて建設工事を開始し、すでにそれなりの投資も行っているからだ。だまし討ちのような、そのような身勝手が現在の商慣行のもとで許されるのだろうか。財産権の保護を求め、さらには電力会社の詐欺罪も対象になる訴訟の嵐となるであろう。
したがって、さすがに電力会社も「永遠の接続拒否」とは言っていない。あくまで系統運用の余力を確認するための「保留」というスタンスである。したがって、ここでは、連系拒否に対する怒りというスタンスではなく、この段階での「連系保留への疑問」というスタンスで、この記事を書く。

電力会社の連系保留の理由「系統容量」とは

電力会社は、この「連系保留」を基本的には「系統容量」の問題としている。分かりやすい言葉に直すと「系統=送電線網」「容量=受け入れられる量」である。ただし、この「系統容量」の意味には2種類がある。
一つは、需要と供給のバランス。電気は常に需要量と供給量を一致させなければならず、供給力があっても送電線の先に需要がなければ電気は送れないからだ。だから、それだけだと送電線の問題ではなく「需要が足りない」という問題になる。しかし、日本中で考えると九州電力供給力などは、あっという間に吸収できる。問題は、隣の電力会社と送電線が切れているからだ。
以前から、日本の送電線は電力会社ごとに分断されていることの問題が指摘されてきた。大需要地と比較的需要の少ない地域がつながっていないため、大需要地では電気が足りなくても、需要の少ない地域での発電所開発の動機が生まれない。逆に言うと、再生可能エネルギーについて無尽蔵といえるほどのポテンシャル(潜在可能性)を秘めている北海道や九州電力管内で風力発電や太陽光発電をつくっても、それを売るところがなかったのだ。(図1)



これを解決するために、すでに実行秒読みに入っているのが「電力広域的運営推進機関」の設立である。電力会社ごとに分断されている送電線を「一体」として運用し、受給のアンバランスを解消しようとするものだ。すでに設立準備組合が立ち上がり、現在ルール作りの最中で、来年4月には正式に立ち上がる。
電力各社の「連系保留」の理由「その1」は、この「電力広域的運営推進機関」が正しく運用を開始すれば解消する。「正しく」とは、いまは緊急時しか認められていない「電力間連系線」の常時運用だ。「電力間連系線」とは、電力会社の送電線と送電線をつないでいる送電線のことだ。
九州電力管内でかりに400万kWが余っても、中国電力へはすでに557万kWの連系線があり、さらに中国電力から関西電力へは1660万kWの連系線がある。これをフル活用すれば良いだけだ。もっと先には中部電力、東京電力もある。これを使えば、400万kWは砂漠にしみ込む水のように吸い込まれて行く。(図2)



もう一つの系統容量は「線の太さ」

「系統容量」のもう一つの意味は、送電線の太さ(送れる電気の量:kV=キロボルトで示される。)である。原発から大都市東京に送る送電線は巨大だが、その送電線の下を通る「生活用」とも言うべき送電線は細い。あるいは、存在しなかったりする。電気を使う「人間」がいなければ送電線は必要ないからだ。メガソーラーや風力発電は、高い確率でそういう場所に作られる。
電気が送れなければ「発電所」は機能しないので、既設の送電線のるところまで、新たな送電線を引っ張らねばならない。送電線が細ければ太くしなければならない。電気を売るためなら、これを電力会社が施設するが、電気を買うためにはやってくれない。そのため、この送電線施設コストが、これまで再生可能エネルギー発電事業者の悩みの種だった。実際に申請してみないと、いくらと言われるかわからないからだ。
近くに送電線があっても線が細すぎたり、すでに他の発電所(メガソーラーなど)が連系しているなどの理由で、遠くの送電線や変電設備まで行かされることもある。そうすると、1kmで1億円ともいわれる送電線コストのため、億単位の請求になることもある。
最近は、そういう送電線の補強を見越して、複数の発電事業者が共同で費用負担する方式となり、「負担金」という名目で系統連系事前協議の重要な項目となっている。事前協議で「負担金」として1000万円とか5000万円とかを提示され、それなら初期コストに吸収できると判断して、事業投資をはじめると「いやー実は1億5000万円になりました!」と言われたというケースも聞いている。今回の「連系保留」は、さらに「あの話はなかったことに・・」となるかも知れないケースだ。電力会社の言葉を信じて投資を開始したのに、これでは詐欺だ!といわれても仕方がない。

「ディープ接続」から「シャロー接続」へ

今回の「連系保留」に対し、いろいろな団体が声明を出している。WWFジャパン、自然エネルギー財団、太陽光発電所ネットワーク、環境エネルギー政策研究所(ISEP)など。それぞれは文末にURLを掲載する。
これらの中で、環境エネルギー政策研究所(ISEP)は、日本の電力会社がとっている「原因者負担の原則」(ディープ接続)ではなく、道路と同様な「公共的な資本」として送電事業者の総括原価に含める(シャロー接続)にすべきと提案している。送電線への連系コストは、欧州でもシャロー原則に基づいて送電事業者が負担しているという。
もっとも、送電線をTSO(送電系統運用機関)のような第三者機関が保有し、運用している欧州と、電力会社が送電線を保有している日本とは、同じというわけには行かないだろうという反論もあろう。確かに現状はそうである。しかし日本も政府のイニシアチブの下で電力システム改革が進められており、2015年度には「広域系統運営機関」が、送電線の広域運用を開始することが決まっている。所有権は電力会社のままではあるが、運営権は「広域系統運営機関」に移ることになる。
これは冒頭に書いた「送電線の広域運用」の必要性から、電気事業法の改正によって定められたことであるが、送電線を電力会社ではないものが運用するのだから、その運用ルールも新たに定められるべきだろう。2015年度からは、日本でも、第三者機関としての「広域系統運営機関」が系統運用することを考えれば、送電線への連系ルールも「シャロー原則」とすることが妥当である。

メガソーラーの設備認定は実現できない数字

九州電力は昼間の電力需要のボトム時期=5月連休には需要が800万kWしかないのに、太陽光発電設備の設備認定量は1200万kWを超えていると主張している。まず、この1200万kWというのが過大な数字で、これは設備認定を受けた設備が全部設置されることを前提としている。実際には、その大半がメガソーラーであり、メガソーラーはこの2年間に設備認定量の数分の一ほどしか設置されていない。(図3)



これは連系の問題だけではなく、きちんとした事業計画に基づかず、やたらめったら設備認定申請をした業者側の問題でもある。ひどいものになると土地所有者に相談もなく設備認定を申請したり、そうやって取得した(設備設置の)権利を発電事業者に高く売りつけようという悪徳業者もいる。したがって1200万kWが100%設置されるという可能性は限りなくゼロに近い。
ところが、そのあり得ない数字をタテに電力会社は「連系保留」を言い出しているのである。とばっちりを受けているのは、悪徳業者ではなく、きちんとまじめに事業を行おうとしている事業者だ。悪徳業者側は設備投資もしていないのだから、まったく痛くも痒くもない。
経産省は今年、初年度(2012年度)に認定を受けたまま設置がされていない400kW以上の案件のうち、初年度設備認定容量の9.7%にあたる182万kWを認定取り消しとしたが、これはまだほんの一部にすぎない。認定取り消しはまだまだ増えるだろう。
ただ、電力会社の立場に立てば、それなら国が「最終的に系統につなげるものはこれだけだ」と示してくれよと言うことであろう。固定価格買取り制度に基づくなら(法律に従うなら)、認定されたものは全部連系しなければならない義務があるのだからいまのうちに、無理だ!と言って何が悪いと。それが、これから法律に基づいて「優先接続」の義務を課せられる「広域系統運営機関」のためでもあると言うのであろう。
その言い分には一理があるが、だからと言って、今回のように実際に損害が発生する形で実力行使に出たのは、「やりすぎ」と言われることになるだろう。

「やれること」はまだまだある。

特殊な事情を持つ沖縄電力を除く4社の、「連系保留」理由等を一覧表にすると図4のようになる。どの電力会社も、家庭用の低圧連系(10kW未満)以外は、原則「連系保留」としている。東北電力の「500kW以上の太陽光については協議を受付」というのは、むしろシステム上からすると不思議だ。結局、システムの問題ではなく、恣意的につなぐ相手を選んでいるのではないかと思われても仕方のないようなものである。



ここまで述べてきたように、「系統の広域運用」「シャロー原則」「認定設備の再チェック」と「設備認定の厳格化」、この4つで問題はほとんど解決するはずだ。しかし、実際には対応策はまだまだあるのだ。最も分かりやすいのは「揚水発電所」だ。原発の夜間の電気を使い捨てるために作られた設備だが、これが日本中に2700万kWほどある。いわば、巨大な電池がすでにあるのだ。(図5)



太陽光の電気が昼間に余るのであれば、それを「揚水発電所」に溜めて、太陽光が無くなる夜や、少なくなる雨の日に使えばよい。そんなこと毎日やるのは無駄だと言う意見が出るかも知れないが、毎日やる必要などない。昼間に太陽光の電気が需要を上回るような日が(実際には来るとは思わないが)万が一あるとしても、それは昼間の電力需要がいちばん少ない5月連休の1週間から10日程度である。
原発の場合は、それこそ毎日のように、無駄に電気を使って水を汲み上げては、昼間に捨てると言うことを繰り返していた。かりに、夜には捨てなければならないことがあるにしても、それはこの5月連休中の数日に限られる。
さらに、それでも電気が余る緊急事態には(まず、こんなことは起こらないが)、「出力抑制」とか「解列」と言う手段がある。発電事業者側からすれば、売上げが減ることにつながるので望ましくはないが、それが年がら年中続くわけではない。5月連休中の数日間の、しかも数時間もしくは数分に過ぎない。完全に送電線からシャットアウトされるよりははるかにましである。
「系統の広域運用」「シャロー原則」「認定設備の再チェック」と「設備認定の厳格化」、この4つがきちんと行われれば、こんな緊急措置をとるようなことはまず必要ないと思われる。マスコミでは、「再エネ買取り破綻」とか「制度設計に失敗」と言うような激しい言葉が踊っているが、対策すべきことは目に見えているし、そんなに難しいことではない。いちばん難しいのが、電力会社が頭を切り替えなければいけない「シャロー原則」だろうが、マスコミがむしろ、そのことをきちんと報道するようになれば、事態はすぐに解決されるだろう。

電力各社の発表内容

[九州電力]
http://www.kyuden.co.jp/functions_inquire_faq_recyclable-energy_reservation.html
[東北電力]
http://www.tohoku-epco.co.jp/news/normal/1188271_1049.html
[北海道電力]
http://www.hepco.co.jp/info/2014/1189736_1635.html
[四国電力]
http://www.yonden.co.jp/energy/n_ene_kounyu/renewable/page_03c.html

各団体の声明

自然エネルギー財団の声明
http://jref.or.jp/library/release_20141003.php
WWFジャパンの声明
http://www.wwf.or.jp/activities/2014/10/1226303.html
PV-net(太陽光発電所ネットワーク)の声明
http://www.greenenergy.jp/pdf/appeal.pdf
ISEP(環境エネルギー政策研究所)の見解
http://www.isep.or.jp/library/6888

少しだけコメントしておくと、声明の中では、総じて政府が対策をするべきという総論批判が多いが、「具体的に何をすべきか」を明記しないと、政府の「思うつぼ?」で、政府は責任を持って、「固定価格買取り制度を廃止する」と言う決断をしました!などということにもなりかねない。「打てる手」は山のようにあり、しかも簡単なのだということを主張すべきだと思う。

なお、冒頭の写真は、山梨の大友さんによる単管パイプを使用した太陽光発電所。


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2 コメント

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不足があります (edo)
2014-10-18 01:20:22
ブログやツイッターで連係数値を直流のように扱って解決策を示される方が増えているのですが、今回の保留案件については系統制御や交流の同期発電知識がないと理解や解決策の提示は難しいと思います。皆さん見落としてますが、無効電力不足の補充策や火力や水力の瞬動力の予備力こそが系統を安定的に維持する上で一番大事になります。揚水発電の効果は皆さんが考えてるような数値にはなり得ませんし、震災以降は連係線融通は量の変動はあるものの、毎日活用されています。資源エネルギー庁のホームページをご覧ください。そして電気の量はkVではありませんよ。WWFのシミュレーションは統計的な方法の結果であって、電気的背景があるわけではないので注意して扱うことが必要です。乱文失礼いたしました。
接続拒否のツケ (柾屋 光由)
2018-09-07 09:02:44
2018年9月6日発生の地震による全道停電の復旧遅れは、再生可能エネルギー接続拒否がもたらした結果である。
夜間の地震なので発生時には太陽光発電は稼働していなく、停電発生自体は防げなかったと思われるが、その後の復旧には寄与していたはずである。
設備が損傷した苫東厚真火力発電所の復旧までの電力不足を埋めるのに十分な容量が認定されていたのに、接続拒否して全道民に停電被害を拡大させたことを北海道電力は謝罪し、補償すべきである。

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