濱田貴司 
今井麻美ライブツアー「Words of GRACE」ファイナル @ステラボール  ゲスト出演後記
   

開演前ステージ リハーサル 終演後の楽屋
 今井さんに慌てて「ちょっと喋って…!」とお願いした。
 手が震えて、このままだとどうにも真面に演奏できる気がしなかったから。
 たぶん今井さんは、楽器の準備か何かだろうと感じたと思うんだけど。
 僕は正直、気を失いそうなくらい緊張してた。
 こんな場所で、堂々と歌って踊って話している彼女の凄さについて、実感している真っ最中でもあった。


 4/2、アルバム「Words of GRACE」の発売を記念して行われたインストアイベントに、無理言ってお邪魔させてもらった。
 ずっと行ってみたかった。
 今井さんのコアなファンの人達の感じ方とか、流れる空気とか、僕もその中に参加してみたかった。いつもの壮大なライブ会場の、中心にいる人たちを。
 今までも精一杯、みんなのことを想像して音楽を作ってきたのだけど、そういう意味では僕の中で集大成になった「AQUAMARINE」を届けて、それで正しかったのかどうかということも気になってた。
 こっそりと楽屋にお邪魔して、イベントに参加させていただき。
 帰る道。
 まさか、あんなに足取りがフラつくようなことになろうとは…

 ライブツアーファイナル品川ステラボール公演で、「Words of GRACE~冬のダリア~」のピアノ演奏を、僕が…

 そうなった流れについては、ライブで今井さんが話してくれていたし、パンフレットにも書いたので、もう、いいか

 もちろん
 お断りすることも可能だったと思う。別に弱みを握られているようなことはないし、まぁ僕が出ることによるメリットもデメリットも、今井さんたちにとって大してあるわけないし。
 ただ習性として、僕は目の前にあるハードルに突進するっていう癖があるのが一つ。

 そしてもう一つは、僕が追いかけていた“今井麻美ファン”の真正面に立てるという機会は、これを逃して先にないと思ったから。

 それにしても、えらいことになった。
 なぜなら僕は、
 まったく
 ピアノが巧くないからで。

 たまにやる自分自身のライブでは、間違うことを一つの芸の範疇にしているぐらいで。

 だけど、“そこ”は大切なアーティストのライブツアーのファイナルであり、しかも、ライブツアーの冠になっているタイトル曲であり、品川ステラボールであり。そんな何千人というファンの前で今井さんの顔に泥を塗ることは、絶対に、絶対に、許されない。

 そして
 “今井麻美の曲”は、大変難しいのである。僕が普段、演奏している曲はテンポ70くらいのものが多い。arpも割とそんなもんだった。それがよ、確か140くらいなの、「Words of GRACE~冬のダリア~」。まぁ誰がそうしたかって、それは作曲家の僕がそうしたんだけど。。。まさかこんなカタチでしっぺ返しに合うとは…まぁそれは置いといて。喩えは合っているかどうかわかんないけど、普段70kmのボールを打ってるバッターが、140kmなんて打てないよね。それは、もう。

 インストアライブが終わった後の楽屋。
 さっきまではヤンヤヤンヤと、みんなを愉快に盛り上げていた今井さんが、戻ってきてポツリ

 「言っちゃったんだからやるしかないね」

 と、呟いた一言が胸を弾丸のように貫いていったことを僕は、はっきりと覚えている。

 でも、
 そうなんだ。
 その通りなんです。
 もう、うじうじ、している場合じゃないんです。
 
 …練習したぁぁ
 それはもう練習したよぉ、、、
 これまでに、こんなに練習やったことない。
 一旦、譜面を丸暗記して、その上で、また譜面を改良したりして。

 その甲斐あって。

 本番前日には、気持ちを込めて弾いても、間違えず弾けるようになってた。

 人間、やりゃぁできるんだなぁ

 まぁ、ただ俺は一曲弾くだけだしね。
 それに何より大きいのは、今回は本当に弾くだけだし。
 だから今後、僕自身のライブでも間違わないようになるという誤解は持たないでいただきたい。僕は今、自分のライブでは、企画・運営・制作…一人十役くらいやっている。言い訳に聞こえたとしたら、それは、ごめんなさい。それは置いといて。

 ついに、本番のその時を迎えるわけです。

 ステラボールをオールスタンディングで埋め尽くしている人の圧力とは、こんなにもすごいものかというのが、開演前の舞台側の気配から伝わってくる。

 そして、今井さんが登場した時の声援で会場が揺れたとき。




 こりゃあかん




 正直、ホントにそう思いました。

 だから、ずっと
 舞台袖にいて、
 とにかく状況に慣れることは無理でも
 環境に慣れようとした。
 気づいた人は一人もいないと思うけど、僕はずっと舞台の右奥スミから亡霊のように顔を出してました。


 だんだんと
 心より先に
 体が慣れてくる感じがあって。
 あれ?
 これはいけるかな?
 なんて思い始めたころに名前が呼ばれて

 登場

 そして舞台の真ん中に辿り着いて正面をみた瞬間




 こりゃあかん




 正直、ホントにそう思いました。


 おぃおぃ、今井麻美さんよ、
 君はいつも、こんなところで、
 そんなふうに、歌ったり踊ったりしているのかい?
 すごい人だね
 あんた
 すごすぎるよ
 俺はダメだよ
 立っているのが精一杯だね、今んとこ




 なんで、あんなに緊張したのか
 ライブを終えて時間がたち、今になっていくつかわかってきたこともあって
 まず、あれほどの人数の男性に注目されたことはないということ。記憶にある似た感覚があって。学生時代にガラの悪い兄ちゃんに囲まれたときね。もちろんファンのみんなは、とてもとても、温かい気持ちで迎え入れてくれていたってことは本当にわかっているんです。だけど、あれだけたくさんの男性の声は「おー!!」って言ってくれてるのが「おんどりゃぁ!!!!」くらいの迫力というか圧力を持って、僕の胸ぐらを掴むかのごとく迫ってきたのです。僕は、たじろいだ。
 そして、もう一つ心当たりがあったのが。僕より、ファンのみんなには、今井麻美さんについて“親心のような愛”があると思うから。僕も勿論、仲間として、友人として、心から彼女のことを尊敬しているけど、親心には勝てない気がするんですよね。だから、僕が何か、態度とか、言葉で間違ってしまったら、それが誤解であったとしても、とんでもないことになるなというのは、直観的に感じたような気がするんです。


 リハーサルのときにね。
 裏側のことについて、具体的には書けないけれど、今井さんは、本当にファンのみんなのことを、すごくすごく思っているんだなぁという出来事が、何度も、何度もあったんですね。
 それで、僕は、
 舞台上で“お笑い”のスイッチを、完全に、切ることにしました。
 インストアイベントでの掛け合いをご覧になった方は、ステラボールでの僕を見て「あれ?」と思ったかもしれません。今井さんも、そんなふうに感じてる雰囲気あったよね。でも、こんな大事な場面で、僕は、余計なことをしちゃいけないと思ったんだ。
 そのくらい、大切に、繊細に、ライブを作り上げていっていたから。


 僕が読んだ手紙は、隅から隅まで、本当に気持ちです。
 打ち上げで、ある関係者から「あの手紙書くの時間かかったでしょ?」って言われたんだけど、いやいやぜんぜん
 10分くらいで書いた。
 だって、普段からただ思っていたことを書いただけだから。


 舞台の上でその手紙を読ませてもらっているとき、
 手紙の小刻みな震えに
 僕自身が気づき。
 それは、もうどんどん激しくなってきており
 そして、それを気づかれないためには、早く読み終えなくては
、と焦り
 焦れば舌は回らず。更に焦り
 読み終えた瞬間、下した手は、ぶるぶるでした。


 ピアノの前に座り。

 今井さんに慌てて「ちょっと喋って…!」とお願いした。
 手が震えて、このままだとどうにも真面に演奏できる気がしなかったから。
 たぶん今井さんは、楽器の準備か何かだろうと感じたと思うんだけど。


 「そろそろ大丈夫かな?」って言ってもらったときも、正直、ぜんぜん震えは止まってなくて。

 でも、もう、出るしかなかった。
 だからね、、、あんなに練習して弾けるようになっていたはずなんだけど、、僕自身の評価としては…65点くらいかなぁ。。。


 でもね。
 舞台袖に戻ってきたとき、濱田智之プロデューサーが、
 すごい温かい笑顔で迎えてくれたんだよなぁ。。。

 このことも是非書いておきたいというか。
 何度も痺れました。
 濱田智之さんの優しさと、大らかさがね、
 演奏家・音響・照明・制作、そして今井さんを包み込んで、
 一つにしてゆくのね。

 それはもう
 ほんとにいろんなことが起こった。
 結果的に素晴らしいライブになったことが奇跡に感じられるくらいのことも…
 でもね、いつだって濱田智之さんは、
 苛立つことも、
 慌てることもなく、
 穏やかな声で、
 いつものように必要なこと、最善を尽くしてゆかれるんです。

 これはねー。ものすごく大切なことだと思った。大きなことを成し遂げるためには。

 それでいて、子供のような好奇心を持ちながら、新しいことに恐れずに挑戦していく。

 そういう姿勢って、僕は本当に学ばないといけないなと思った。

 アンコールで僕に赤いTシャツを着せてくれたのも、
 普段ぜったいにつけないネックレスをかけてくれたのも
 濱田智之さんです。

 濱田智之さんのもとで今井さんが羽ばたき続けていく理由がよくわかったというか。

 このチームは、すごいなぁと。
 ホントに、すごいなぁと

 すごいなぁ…


 今となっては、回らなかった舌も、65点の演奏も、
 これで良かったんだと思ってます。
 これが現時点の本当の僕なんだし。
 だからきっと、ファンのみんなも「よしよし」って認めてくれたような感じはあって。

 ただ、「AQUAMARINE」のときはやっぱりすごく感動したけど、それでも最初のほうに書いた“テーマ”の解明には至ってません。
 なので、これからもチョロチョロと界隈をうろついたりするかもしれないてですが、その時は、優しくしてやってください。声なぞ、かけてやってもらえたら光栄でございます。


 本当に、ものすごい体験をさせてもらったな。

 絶対に、一生忘れられない記憶になるし。
 このことを体験した後の人生って、個人的にはちょっと違ってくると思う。

 濱田智之さんには感謝の気持ちでいっぱいです。

 もちろん、もちろん、今井さんにも。
 僕、まだ今井さんと連絡先の交換をしてないんですね。
 出演者全体のグループLINEとかあるみたいだけど…てか、そもそもLINEやってないんだけど。
 でも、今はよくって。
 すんげぇ、歳とってからなのかなぁと思います。
 ただ、そんときは、すんげぇ親友になるんだという確信はしてます。
 お互いに見てきたもの、そして、わかったこと。いつか…、夜が明けるまで語り合いたいです。
 だから、それまで僕が前線から脱落しないように、もっともっと頑張ってかないとなぁ。



 そして、この文章を最後まで読んでくれた貴方。
 お付き合いくださって、ありがとう。

 これからもまだまだいろんなことがあると思いますが
 どうかよろしく。と


 まずは、次の自分のワンマンコンサートを、
 来てくれた人が、必ず何かを持って帰ってもらえるものにします


濱田貴司 平成28年5月17日
http://hamadatakashi.com