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長く勤務する人は少なく転職先として不安

外資をリストラされた人は、どこにいくのか?

2016/2/03
NewsPicksには、さまざまな分野で活躍する有力ピッカーがいます。そんなスターピッカーに「ビジネスや人生の相談をしたい」という要望に応えて、相談コーナーを設けています。人生の悩みにお金の心配や不安はつきもの。長年ファンドマネージャーとして活躍したエコノミストの山崎元氏が、皆さんから寄せられた相談に、ユーモアを交えながらも深刻にお答えします。

【山崎先生への相談】

いつも山崎さんの本を拝読して勉強させていただいております。今日は転職後のキャリアについて相談させてください。現在、私は4大監査法人のひとつに勤務していますが、ずっと監査法人の仕事をしていきたいわけではないので、現在転職を考えております。

エージェントからは外資系証券の投資銀行部門とマーケット部門のアナリストのポジションを紹介されました。英語ができて、会計士ならどちらでも応募できると言われました。

なんとなく2つの仕事のイメージはわかり、どちらも興味はありますが、それぞれの労働環境や給与、そこで働いた後のキャリアについて外資系勤務経験のある山崎さんにお伺いしたいです。

外資証券は長く勤務する人は少ないと思われますが、ある程度の年齢で辞めざるをえなかった場合、どういうキャリアに進む方が多いのでしょうか。 今はまだ20代なので転職しやすいと思うのですが、ある程度の年齢になって転職せざるをえなくなった場合に不安が残ります。 私自身は起業や独立は考えておらず、企業に所属してずっと働いていきたいと思っています。 アドバイスいただければ幸いです。よろしくお願いします。

外資系証券の3階層

英語のできる会計士として20代で外資系証券会社にポジションを得られそうな相談者は、まずまず順調なキャリアパスの中にいらっしゃると拝察します。また、転職に当たって、「外資系(証券)を辞めた人はどこにいっているのだろうか?」という問いを立てておられることも的確です。相談者が転職された場合に、成功する可能性は小さくないと思われ、アドバイスにも力が入ります。

さて、外資系証券会社は、報酬は概して高額であるものの、実質的に「クビ」があり得るキツイ職場です。相談者が心配されるように、長く勤務する人が相対的に少ない職場でもあります。

外資系の証券会社をクビになった人の「次の職場」は、(1)別の外資系証券会社、(2)外資系生保等の歩合的セールス会社、(3)日系金融機関、(4)別業種・別分野に大別できます。最も多いのは、別の外資系証券会社でしょう。

気取って投資銀行などと自称している会社も含めて、日本にオフィスを置く外資系の証券会社は、大まかに3層くらいにクラス分けされると考えてください。

会社の具体名は挙げにくいのですが、一流として名の通った大手の米系証券会社がAクラス、時々日本株部門を縮小するような主に欧州系の大手ユニバーサルバンク系証券がBクラス、それよりも小ぶりな外資系証券がCクラス、といったイメージでしょうか。

潰れた会社でいえば、リーマンブラザーズ証券は、米系ですが、より大手の米系投資銀行よりも格下のBクラスでした。Aクラスがコンプライアンスや評判上のリスクを恐れて手を出さないような案件でも手掛けるケースがありました。人の出入りは、相当に激しかったはずです。

回答者は、現在、現役の外資系金融マンではないので、今回、相談者のディールに関わっていない直接的利害関係のないヘッドハンターに、現在、どの会社が一流(Aクラス)で、どの会社が準一流ないし二流(Bクラス)、さらにその下のクラス(Cクラス)に相当するのはどういった会社かという、緩やかな格付けを聞いてみてください。

AクラスからB、C クラスへ

端的に言って、Aクラスの会社をクビになった場合、高い確率でBないしCクラスの外資系証券会社で職を得ることができます。この点は、日系企業から外資系証券会社に転職する場合にあまり意識しない人が多いように思いますが、そもそも外資系の1社目を選ぶに当たって重要なファクターです。

入社後にめきめき頭角を現して東京支店長や本社の幹部になるような少数の成功者を除くと、外資系証券会社に勤める場合、例えば、Aクラスの会社で5年、Bクラスの会社に転職して5年、Cクラスの会社でもう5年、といった調子で、螺旋(らせん)階段をゆっくり下りながら、その後の人生に十分なお金(日本の大手企業の生涯年収の倍くらいでしょうか)を稼ぐことができれば、「まずまずの外資金融マン人生」でしょう。

A、B、Cいずれのクラスの会社に勤めている場合でも、身の上にはさまざまなリスクが降りかかってきます。仕事上の失敗の可能性もあれば、上司との不和もあり得ますし、外から転職してきたライバルにポジションを取られる場合もあります。加えて、今年に入ってから日本株式部門(現物)からの撤退を決めた某社のような「本社の方針」に伴うリスクもあります。

外資でうまく立ち回るためのコツや技術はそれなりにありますが、これらのリスクを完全に避け切ることはできません。「稼げるときに、なるべくたくさん稼いでおく」のが基本的に最善のリスクヘッジですが、なるべくクラスが上の(できればAクラスの)会社から勤め始めると、いざというときに、同じ「外資系証券」の業界内でもう一度チャンスをつかむことができる可能性が大きいことを計算に入れておいてください。

「高収入最後の望み」外資系証券マン

しかし、個人差はありますが、クビになった場合に、次の職場を外資系証券に見つけられないときがやがては訪れます。また、職種やライフスタイルにもよりますが、外資系証券は、普通、定年まで勤めていたい職場ではありません。

外資系証券マンは、高収入な分生活の支出も大きい場合が多く、また、節税目的その他で不動産などに投資している場合もあって、クビになったものの、多額のキャッシュフローが必要だというケースが少なくありません。

こうした場合に希望を託されるのが、外資系の生命保険会社などのセールス系の仕事です。実績をあげることができると、外資系証券マン並みの収入が得られる可能性があるので、こうした職種に「高収入最後の望み」を懸ける外資系証券マンが時々います。

もともと甘い仕事ではなく、セールスを通じて、結果的に知り合いに迷惑を掛ける場合などもありますが、人脈が広く、セールスに適性のある方には、有望な職場になる可能性があります。ただ、「英語ができる会計士」である相談者の志向とは異なる仕事であるようにも感じます。

別の道として近年増えているのは、日系金融機関に転職するケースです。概して言えば、年収は落ちるものの、仕事のペースがゆっくりになり、何よりもクビになるリスクを意識せずに働くことができるので、ホッとしている人が多いように見受けられます。出世を目指さなければ、安定収入、慣れた仕事、そこそこの社会的身分が確保できるので、悪い選択ではありません。

40代からのセカンドキャリア

相談者の場合、英語ができて会計士の資格をお持ちなので、40代以降になっても、丁寧に探すと就職できる日系金融機関はあるだろうと思います。

外資系証券は、端的に言って「実質的な定年」が早く、Aクラスの会社であれば、40歳前後から「1年1年が勝負」のような感じになることが多いでしょう。これを、「残りの(長い)人生が大変だ!」と考えることもできますが、ものは考えようで、まだ若くて元気なうちに、セカンドキャリアにチャレンジできると考えることもできます。

40代からのセカンドキャリアだと、日系企業に定年まで付き合うよりは、はるかに自由度の高い職業選択肢があり得ます。自分で起業するのもいいでしょうし、外資マン時代に十二分で稼いであるなら、NPOやボランティアなどで社会貢献に張り合いを目指す道もあります。今から将来何をするか決めることは難しいと思いますが、外資系証券マン時代になるべくたくさん稼いで、こうした方向で次の勝負をかけるのが、最も現実的なコースのように思います。

いろいろと可能性を論じてみましたが、率直に言って、先のことは分かりません。相談者の場合、(1)なるべく上のクラスの外資系証券から始める、(2)稼げるときにできるだけたくさん稼ぐ、(3)「次に就職できる会社」または「次にやること」を絶えず考えておく、という方針で、出たとこ勝負に打って出てみていいのではないでしょうか。

「走りながら成長しよう」と考える方が、「成長してから走ろう」と考えるよりも、少なくとも面白いでしょうし、好結果をもたらす確率が高いように思います。大いに暴れてみてください!

山崎氏に相談をしたい方はこちらまでご連絡ください。

*本連載は毎週水曜日に掲載予定です。