ブラック企業肯定論と体罰肯定論は同根-若者をシバけば良くなるという日本社会の病 | すくらむ

すくらむ

国家公務員一般労働組合(国公一般)の仲間のブログ★国公一般は正規でも非正規でも、ひとりでも入れるユニオンです。

 1月17日、ニコニコ生放送「饒舌大陸」の「ブラック企業に食い殺されない生き方」を視聴しました。『ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪』(文春新書) が話題になっている今野晴貴さん(NPO法人POSSE代表) をゲストに迎え、飯田泰之さん(経済学者)と常見陽平さん(人材コンサルタント)が語り合うというものでしたが、すでに今野さんによる「ブラック企業の論点」については、以前のエントリー「若者の心身破壊し命も奪うブラック企業-1日で連続11時間は休息とする長時間労働の法的歯止め必要」 で紹介していますので、これを前提にして、以下、今回のニコニコ生放送を聞いていて、私がメモしたところでごく一部分の断片に過ぎませんが紹介しておきます。(※以下、敬称略。by文責ノックオン。ツイッターアカウントはkokkoippan)


 ブラック企業は悪い宗教
 ブラック企業のマインドコントロールにはまるのは
 女性が悪い男にはまるケースにも似ている


 飯田 ブラック企業で働いている人の中で、むしろすごくいいことを企業側から自分はしてもらっていて、すごく働きがいがある企業だと思っている人も特殊な例ですが一部にいますね。でもからだはすでにボロボロになっていますので、これはもたない、働き続けることはできません。さらに企業側はその人のことを客観的に見て大切にしていないのに、悪い宗教にはまったみたいにブラック企業で働く人があります。これはどういう心境なんでしょう。


 常見 ひとつは企業側のマインドコントロールによるものです。「みんなで目標達成、がんばろうぜ!」みたいな、“やりがいの搾取”をつかってうまく使い回していく。ブラック企業にはまってしまうのは女性が悪い男にはまるケースにも似ているのではないでしょうか。「いろいろ問題があるけど私がいなきゃ」と思ってしまったりして、実際は休日出勤とかが常態化しているのに、「私、楽しい」って言っちゃうとか。


 文春から『ブラック企業』を出版した意義
 ブラック企業は若者問題・世代間対立問題ではない


 今野 おかげさまで『ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪』(文春新書) はいま五刷りです。文春から話をいただいて、労働系や若者系が強いメディアでもない、どちらかと言うと保守系で中高年層の読者が多いところでしょう。そこから『ブラック企業』を出版するのは面白いと思いました。そういう人たちにとっても、若者がひどい目にあっているという話とか、世代間対立などではなくて、ブラック企業というのは社会問題なんだと響くはずだと思いました。


 若者がブラック企業で使いつぶされて、うつ病になる。うつ病が増えると医療費が増大する。医療費が増大すると財政の問題になってくる。そして、働ける人が減ってくると納税する人が減る。年金の保険料なども払える人がいなくなる――というふうに、ブラック企業が増えると、若者だけでなくすべての年齢層に渡って、みんなが困るのです。


 「ブラック企業肯定論」と「体罰肯定論」は同根
 若者をシバけば良くなるという根強い信仰の跋扈


 今まで跋扈してきた多くの若者論で、「若いやつはダメだ」「若いやつはダメだ」と若者バッシングがずっとやられてきました。いま体罰の問題がありますが、私は「ブラック企業肯定論」と「体罰肯定論」は同根だとツイートしました。(※以下がそのツイート)


 ◆「ブラック企業肯定論」と「体罰肯定論」は同根である。不景気や生産性の低下を若者の「個人的資質」に求め、若者を「鍛えなおす」ことが解決策とされる。彼らにとって、ブラック企業の過労死ラインを超える労働も、そうした「体罰」の一種としてうつる。人間の人権や尊厳をとことん無視した見方である
https://twitter.com/konno_haruki/status/290815221109497857


 ◆「体罰肯定論」にしても、「ブラック企業肯定論」にしても、この国の終わりを思わされる。国の問題を直視できず、若者に転嫁する姿勢は、愚かといって余りある。若者をどんなに追い詰めても、何も出てこない。自分達がむしろ、次の世代のために、何ができるのかを、真剣に考えてほしいのだ。
https://twitter.com/konno_haruki/status/290819727201300483


 ◆体罰の肯定問題と「意識高い」若者問題は、遠いようで近い問題なのではないか。両極にふれているけど、結局は社会が若者の精神へと負荷をかけている構図にはかわらない。体罰に従順であることの強要も、「意識高い」ことへの従順さの強要も、似ている気がする。若者に対する過剰な期待と、問題の転嫁
https://twitter.com/konno_haruki/status/291588840345448448


 今野 「ブラック企業は仕方ない。若いやつがもっと頑張らなきゃダメだ」という理屈がありますが、「ブラック企業肯定論」も「体罰肯定論」も、もっともっと若者をシバかなければダメだという話で、いろいろな社会の問題があるのに、とりあえず基本的には若いやつをシバけばなんとかなるんだというノリで、「サビ残?」「労働時間が長い?」「将来がない?」、そんなの関係ねぇと、もっと若いやつが頑張らないとダメだ、という話に還元してしまう。今の文部科学省の態度も同じです。キャリア教育と言って何を教えるかというと、小学生のうちから厳しいことを教えなさいというわけです。若者の多くがうつ病になってからだを壊して困っているのに、そこに小学生のうちから厳しいんだという精神教育をやればいいと平気で言っている大人たちがいるわけです。これは体罰肯定論と何が違うというのでしょうか。


 飯田 若い人に責任を転嫁する言説が、変わってきているところもあって、今回の体罰の問題で言うと、「体罰で若者が良くなった」とか「若者がブラック企業で厳しい環境に置かれると良くなる」などという“素朴な信仰”というのがなぜか強い。元プロ野球投手の桑田真澄さんが、体罰で良くなったことなんてありませんと言っていますが、同じように、とりわけサービス業系のブラック企業でスキルが身につくことなんてないですね。


 普通にブラック化に巻き込まれる日本社会
 カツマームーブメント、「頑張らないとダメ幻想」、
 「意識高い系」という病


 今野 そこはブラック企業の定義の問題があって、スキルが身につく企業はブラック企業ではありません。スキルが身につかず、人を使いつぶすだけというのがブラック企業で、スキルが身につくのは単なる“きつい企業”です。


 飯田 新人とベテランのスキルの差があまりないようなサービス系とかがブラック企業化しやすいと思う。スキルを積み上げなくてもいいわけだから、新人を使いつぶして取り替えていけばいいとなる。


 常見 私は採用広告を作ってた立場なんですけど、裏側から採用広告を見ると、とても面白くて、「若手でも大活躍できる会社です」って、一見美談みたいですけど、若手ごときで大活躍できるって、逆に言うと先がないということです。それから、今の社会で気をつけなければいけないのが、普通に生きているだけでブラック化に巻き込まれてしまうということです。たとえば、カツマームーブメントみたいな「頑張らないとダメ幻想」に巻き込まれてしまう。じゃあ、みんな誰でも頑張ってうまくいっていたのかというと、人間ってみんな誰でも自立して生きて行ける存在じゃないと思うのです。だけど、「意識高い系」という病に巻き込まれてしまう。


 「自分を責めるスパイラル」
 働き手の過剰な自己責任の呪縛をどう解いていくか


 飯田 私自身もすごく思うのは、すごく頑張らないとなんとかならない国はイヤなんですよ。セルフブランディングとかなんとかで、すごく頑張ってやっていかないとダメな人間だなんて言われる国は気持ち悪い。


 常見 世界に負けるな、他国に負けるなとか言ってるけど、その他国だって意識高いかって言ったらそんなに高くない。たとえば、アメリカでさえ、普通のビジネスホテルでネット回線がきちんとつながらなかったり、日本のビジネスマンとかスマホをほとんど使ってるけど、アメリカのビジネスマンはこんな分厚いガイドブックの地図を繰りながら道に迷ってたり今もしてるわけです。それと、とにかく日本では働く人が自分を責める。体調崩したらすみませんって、企業側がサビ残、長時間労働をやらせているから、そこで働く人が体調崩してしまうのに、本人は自分を責める。「パフォーマンス発揮できてない自分が悪いんです、すみません」とか、日本には働く人が「自分を責めるスパイラル」がとても強いことも問題です。


 飯田 日本は働き手が過剰な自己責任を感じている。全部が自分のせいという、自己責任の呪縛をどう解いていくかも課題です。


 ブラック仕業、ブラック軍団をなくし
 2013年を「ブラック企業対策元年」に
 普通に働く人が働きやすい社会にしないと景気はよくならない
 働きやすくなる雇用のルールづくりを


 今野 ブラック企業は労務管理の中に使いつぶすことを組み込んでいる企業です。相手は使いつぶす気、うつ病にする気で、労務管理してくるのですから、ブラック企業で頑張って働くなんていう選択肢は出て来ないのです。


 ブラック企業が広がってきた背景のひとつに、ブラック弁護士、ブラック社労士などのブラック士業が世の中に広がっているという問題もあります。ブラック士業が企業にはりついて企業をブラック化していく側面もある。ブラック弁護士は違法なことを企業にけしかけて紛争などで“炎上”させて自分の利益を得る。最初から違法状態をやめていた方が紛争にならず金銭的にメリットがあるにもかかわらず、ブラック弁護士が自分の利益を得るために、企業をブラック化させるケースなどもあるのです。


 常見 それはある意味、ブラック企業とブラック士業という「ブラック軍団」が広がっているということですね。2013年を「ブラック企業対策元年」にする必要があると思います。いま、CSRは“社会との共生”がいちばん大切なキーワードになっていますから、「うちはブラック企業じゃない」と企業が宣言していくことを広げる必要があります。普通に働く人が働きやすい社会にしていかないと景気はよくなりません。働きやすくなる雇用のルールをつくれ。以上です。